花とコトリ

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8/26/2025, 2:27:31 PM

素足のままで

素足でいるのが好きだ。
フローリングの冷たさや、絨毯のやわらかな感触が、足の裏から直接伝わってくる。
スリッパは足の間に一枚、無意味な境界線をつくる。
家の中にいるときは、世界を隔てる壁なんていらない。
足の裏で、全部感じていたい。

クロもいつも素足だ。
肉球で床を踏みしめている。
裸足のまま、世界の匂いを嗅いで、
裸足のまま、私の足元に丸まって眠る。

彼はきっと、
世界をそのまま感じることの、
美しさを知っているのだろう。
だから僕も、
できる限り裸足でいたいと思う。
できる限り、そのままの世界に触れていたい。

冷たい床も、温かい日差しも、
素足で感じるだけで、それは「いま」になる。
それは、クロが教えてくれた、とても単純な真実だ。

8/24/2025, 2:37:21 AM

遠雷

遠くで雷が鳴っている。
もうすぐ来る雨の匂いが、窓から入ってくる。

私は、ただ静かにその音を聞いている。
何かを待っているようでもあり、
ただ、過ぎ去るのを眺めているだけでもあり。

クロは、ソファの上でお腹を出して眠っている。
耳をぴくりともさせず。
稲妻が光っても、気にもしない。
雷を怖がらない犬。

こんな大きな音に、心揺らがない。
その平穏さが、この部屋の、私の、
一番深いところに、届いてくる。

世界がどんなに騒がしくても、
たった一つの、ちいさな命が、
静かにそこにいる。

それだけで、遠い雷は、
ただの、夏が終わっていく音になる。

8/22/2025, 8:22:26 PM

Midnight Blue

夜が、どこまでも青い。
真っ黒になる一歩手前の、深い深い青。
この色が好きだ。
静かで、なにかに包まれているような気がするから。

足元には、愛犬のクロが丸くなって眠っている。
規則正しい寝息だけが聞こえる。
世界には、わたしたち二人だけ。
そう思っても、だれも笑わない。
この時間だけは、すべてのことが許されている。

飲み残しの、気の抜けた炭酸水を一口飲む。
窓の外には、街灯の光がぼんやりと滲んでいる。
青の中に溶けていく。
クロが、寝言を言った。
そんな夜だった。

8/22/2025, 7:30:48 AM

【君と飛び立つ】

クロが、横で寝息をたてている。

世界は、この部屋の窓の外、
もっと遠くの、どこか。
でも、そのどこかには、
いま、行かなくていい。

庭のブルーベリーの木は、
今年も小さな実をつけた。
甘酸っぱい、
記憶のような味がする。

手のひらに数粒のせて、
ひとつ、口に入れる。
クロが静かに顔を上げて、私を見ている。
その、どこにも行かない時間が、
どこへでも行ける時間のように思える。

この命と、この命と。
いつか、そうして、私たちは、
この場所から、そっと、飛び立つ。

8/20/2025, 3:40:14 PM

「きっと忘れない」

人はなにかを得て、なにかを失って生きていくものだが、私はこの朝もまた、小さな幸せを得た。窓をあけると涼しい風が部屋に入り、青空がひろがっていた。庭の草むらが光に濡れて、露がきらきらと輝いていた。そのとき、クロが駆けよってきた。尾をふりふり、私の足もとにじゃれつく。黒くてつややかな毛並み。無邪気な瞳。私はクロの頭をそっと撫でる。「おはよう、クロ」、クロは嬉しそうに声をあげた。犬は人よりも素直だと思う。心が白いから、感情も真っすぐだ。私はクロと散歩に出る。道端の花を見つけて、二人で立ちどまる。風がやさしく吹いて、頬にあたる。私は思う。こうして過ごす日々を、私はきっと忘れないだろう。クロ、お前もそうだろうか。心にぽっと灯る、小さな感謝を私はそっと胸にしまった。

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