二面性

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10/13/2025, 12:36:28 PM

男は死んだ。
私は燃え盛る屋敷の中佇んでいた。
たった五文字。
人間ならば一度は言ったことのある言葉。
何故あの男が私にその言葉を囁いたのか。
回るはずのない思考を放棄した。

どこかで聞いたことのある唄。

驚いて振り返ると男の傍に倒れている“人形“が目に入った。
音の発生源はこの人形だ。
よく作られたぜんまい仕掛けの人形。
かつてあの男が愛していた人形。
誰かがぜんまいを回したのか。
それとも自分で回したのか。

心なしかその唄は大きくなっていってる気がした。
壊れた機械のようにるりら、るりらと。
大きくなるにつれ彼女の息が浅くなる。
壊さなければ。
謎の使命感が彼女を包んだ。
震える手はたしかに引き金に指をかけていた。
発砲音はしなかった。

彼女は人形を強く蹴り上げた。
それでも尚人形は唄を奏でる。
燃え盛る炎に突っ込んだとしても。
ゆっくりゆっくりと音が壊れ始めた。
しっかり目に焼き付けた。

孤独な男の亡骸と、
ぜんまい仕掛けの人形を。

[LaLaLa Goodbye]

10/12/2025, 12:00:48 PM

さあ行こう。

僕は微笑んだ。

君を連れて行ける腕はないけど。

この足で運んでみせるよ。

君の顔は見えないけど。

君の視界をクリアにしてあげる。

僕は一人じゃどこにも行けない。

でも君となら行けるんだ。

この世の果てまで。

[どこまでも]

10/10/2025, 10:17:12 AM

世界を手に入れたかった。

一人称視点でしか進まない人生。

ゲームのように上手くは行かないけれど。

静かに暮らすことも出来ないけれど。

頑張ろうって言葉を信じられるように。

生きてる自分を労いたくて。

1回だけ。

ほんの一瞬だけ。

世界をくれないか。

いつか見た強欲な少女の物語のように。

誰かコスモスを1輪持ってきて。

[1輪のコスモス]

10/9/2025, 10:35:56 AM

穏やかな日差しに風が透ける。

いつかのはじめましてが言えなくて。

まだ匂いを隠しきれていなかった青天が、

早とちりして出すぎた肌寒さが心を埋めていく。

まるで風情を楽しんでいるようだ。

細い節々の一つ一つに命が宿る。

朱色と紺と鈍色が混じり合う。

鼻腔を掠める秋の香りに深呼吸した。

[秋恋]

10/8/2025, 8:06:12 PM

白に白以外の何かを入れても白には戻らない。

まるで免罪符のように軽々しく使われる。

綺麗事の御託を並べ物語は回る。

言葉も知能も全て意味が無い。

結局言うだけ言って実行はしない。

人生というのはそういうものだ。

本当にそういうものか?

何も付け足さずありのままを愛すことはできないのか?

白と偽る泥色がその瞳を埋めてしまう前に。

[愛する、それ故に]

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