男は死んだ。
私は燃え盛る屋敷の中佇んでいた。
たった五文字。
人間ならば一度は言ったことのある言葉。
何故あの男が私にその言葉を囁いたのか。
回るはずのない思考を放棄した。
どこかで聞いたことのある唄。
驚いて振り返ると男の傍に倒れている“人形“が目に入った。
音の発生源はこの人形だ。
よく作られたぜんまい仕掛けの人形。
かつてあの男が愛していた人形。
誰かがぜんまいを回したのか。
それとも自分で回したのか。
心なしかその唄は大きくなっていってる気がした。
壊れた機械のようにるりら、るりらと。
大きくなるにつれ彼女の息が浅くなる。
壊さなければ。
謎の使命感が彼女を包んだ。
震える手はたしかに引き金に指をかけていた。
発砲音はしなかった。
彼女は人形を強く蹴り上げた。
それでも尚人形は唄を奏でる。
燃え盛る炎に突っ込んだとしても。
ゆっくりゆっくりと音が壊れ始めた。
しっかり目に焼き付けた。
孤独な男の亡骸と、
ぜんまい仕掛けの人形を。
[LaLaLa Goodbye]
さあ行こう。
僕は微笑んだ。
君を連れて行ける腕はないけど。
この足で運んでみせるよ。
君の顔は見えないけど。
君の視界をクリアにしてあげる。
僕は一人じゃどこにも行けない。
でも君となら行けるんだ。
この世の果てまで。
[どこまでも]
世界を手に入れたかった。
一人称視点でしか進まない人生。
ゲームのように上手くは行かないけれど。
静かに暮らすことも出来ないけれど。
頑張ろうって言葉を信じられるように。
生きてる自分を労いたくて。
1回だけ。
ほんの一瞬だけ。
世界をくれないか。
いつか見た強欲な少女の物語のように。
誰かコスモスを1輪持ってきて。
[1輪のコスモス]
穏やかな日差しに風が透ける。
いつかのはじめましてが言えなくて。
まだ匂いを隠しきれていなかった青天が、
早とちりして出すぎた肌寒さが心を埋めていく。
まるで風情を楽しんでいるようだ。
細い節々の一つ一つに命が宿る。
朱色と紺と鈍色が混じり合う。
鼻腔を掠める秋の香りに深呼吸した。
[秋恋]
白に白以外の何かを入れても白には戻らない。
まるで免罪符のように軽々しく使われる。
綺麗事の御託を並べ物語は回る。
言葉も知能も全て意味が無い。
結局言うだけ言って実行はしない。
人生というのはそういうものだ。
本当にそういうものか?
何も付け足さずありのままを愛すことはできないのか?
白と偽る泥色がその瞳を埋めてしまう前に。
[愛する、それ故に]