あれもこれも「大事にしたいから」って抱え込んだ結果、気付けば僕は大荷物に潰されて身動きが取れなくなっていた。色々と荷物を降ろそう。
今も大事にしたいと思うものとそうでないものを改めて分別していくと、なんでこんな物が? ってものがいくつもあった。
大事にしたいと思った過去の僕の気持ちは多分、偽りなんかじゃないんだけど、今の僕にはその時の気持ちがどうしても理解出来なかった。
いつか必要になる、いつか持っていないと後悔する——そんな理由で今日まで大事に大事に抱えてきたものを全て捨ててしまおう。おそらくそんな日は来ないから……。
そうやって心の整理をしているうちに、ようやく僕は思い出した。僕が本当に大事にすべきだったものは、他ならぬ僕自身の気持ちだったんだ、ってことを。あたりに散らばるスクラップの山もそのままに、僕は嗚咽混じりに、いつの間にか痩せ細っていた僕自身の心を強く抱き締めた。
君は「時間よ止まれ」って願ったことはあるかな?
……まあ、そうだろうね。普通の人間なら一度や二度くらいはあるよね。
そして、本当に時間が止まったらやりたい事もあっただろう。
それが何か? なんてあえて聞かないけどね。
凡そ、普段出来ないようなインモラルなことだろうし……そこは、ね。触れないほうがお互いのためだろう。
でも、実際に時が止まったとして、君はそんなことが本当に出来ると思う?
ははっ、随分と威勢のいいことで。結構結構。
けどさ、断言するよ。君はそんな事を出来るほど大それた人物ではない、とね。
君は、普通なんだよ。認めたくないだろうけど。だから、普通の人が持っている道徳観から外れたような行為は——たとえ誰も見ていないとしても、出来ないんだよ。
例えば、車が来る気配もないのに信号をキッチリと守る。例えば、誰が捨てたかなんてバレないだろうにポイ捨てをしない。
そうした当たり前の道徳観が君の根底にしっかりと根付いているから、君はたとえ時が止まったとしても普段と変わらない行動しか出来ないと思うよ?
試してみるかい? 私にはそれが出来る。
……そう言うと思ったよ。君は私の申し出を断る。『時が止まる』なんて、君の普通から著しくかけ離れているからね。そこに君が飛び込むことは無い。前言の通り、君は普通なんだよ。
だからこそ私は君を愛してやまないんだ。この能力を悪用出来ない君がね。どうだろう、今度時間が止まった街でデートでもしてみないか? ふふっ、冗談冗談。けど、デート中に私がつい時間を止めてしまっても許してくれよ? 私にとって、君との時間は何物にも代えがたい物なのだから……。
お隣の寂しん坊将軍はさ、ミサイルなんかじゃなくて、花の種でも飛ばしゃいいのにな。
もしその種がきっかけで花畑が出来たりしたら、将軍様とお友達の会話にも素敵な花が咲くかもしれないぜ?
ミサイルなんかよりよっぽど将軍様と国家のためになる選択肢だと思うのですが……もしよろしければご一考いただけますと幸いです。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件等とは一切関係がありません。
枠を確保しておく用『空が泣く』
帰宅して部屋の電気を点けると、今日もスマホが鳴った。
今日も『お疲れ様』——それだけを伝える見慣れたスタンプが届いたようだ。
君からのLINEは、いつも見計らったかのように良いタイミングで来るよね。いくら問い詰めても君は「○○の彼女ですから!」と繰り返すだけだけど、俺にはそんな嘘吐かなくていいのに……。
頼むからもう少し話を聞いてくれよ。俺、君と付き合ってなんかない。マンションの前の電信柱の影から、じっとこちらの様子を伺うのも辞めてくれ。
LINEだって本当は開きたくもないんだ。未読で10分も放置しようもんなら執拗な追撃が来るから開いてるだけで……。君の愛する可愛らしいキャラクターは俺にとっては最早恐怖の象徴だよ。頼むからこの可愛らしいキャラクターを、そんなものに仕立て上げないでくれ。
俺の願いも虚しく、翌日も君からのLINEは届く。
一体いつになったら俺は解放されるのだろうか……。