不登校な君に恋をした

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5/7/2024, 1:24:36 PM

『初恋の日』

 中学校に入学したあの日、すぐに君のことを好きだと思えていたらどれだけ良かっただろう。

 あの日、僕の隣の席に座って、誰とも話さず、人を寄せ付けない雰囲気を纏って読書に勤しんでいた君に抱いた第一印象は「大人ぶったウザそうな奴」だった。普通入学初日から読書とかしないだろ。何だこいつ。そう思ったのを鮮明に覚えている。自己紹介でも必要最低限の事しか話さないし、近くの席の人が話し掛けてもあからさまに嫌そうな反応をする。そんな君の態度が僕にとっては一周回って面白くて、それから毎日毎日僕は君に話し掛けた。

 最初はただ嫌そうにするだけの君だったが、段々と返事をしてくれるようになり、そのうち僕が君をからかって、君もまた僕を挑発し、二人でくだらない小喧嘩を繰り返す仲になった。今考えれば本当に小学生みたいなやり取りだったと思うし、周りの皆も「喧嘩するほど仲が良い」という風に僕らのやり取りを気にも留めていなかった。僕達自身、喧嘩とはいってもお互い何処か楽しんでいるのを感じていたし、多少ヒートアップしてもどうせ隣の席なのだから次の日にはなんとなく元通りに戻っていて、そんな関係が変わらず続くように思っていた。

 夏休み明けから君が徐々に不登校気味になっていき、やがて全く学校に来なくなると、僕の毎日は随分平和で味気無いものになった。授業中にこっそり喧嘩することも、朝早起きして相手の机に悪戯を仕掛けておくこともなくなる。言ってみればようやく普通の中学生らしくなったとも捉えられるのだが、気付いた時には君がいた毎日が愛おしくて、今が寂しくて、もう止められないくらいには好きになっていた。いなくなって初めて気付く初恋ほど阿呆らしいことはない。僕は今でも思う。君がいたあの頃に、この恋心に気付くことが出来ていれば、今とは違う僕達がいたんじゃないか、と。

5/6/2024, 10:25:05 AM

『明日世界が終わるなら』

 明日世界が終わるなら、私の肩書きから「不登校」の3文字は消えてしまうだろうか。うん、そもそも学校もなくなっちゃうんだから、そのうち登校なんて概念もなくなるよね。

 世界が終わったその後に、私なら何をするかな。したいことなんて全然浮かばないけれど、まずはまあ制服を燃やすとか、かな…。

 …しょうもな、私。

5/5/2024, 12:29:06 PM

『君と出逢って』

 君と出逢って、僕は生まれ変わった。君を好きになったことだけが僕の唯一のアイデンティティになってしまったかのような、君に出逢う前の僕は僕じゃなかったかのような、そんな錯覚が度々僕を襲う。

 どうしようもないくらい君に会いたい。そんな単純な願望だけが頭の中を埋め尽くす日々を重ねるごとに、辛い、苦しいと感じることも増えてきている。教室の隅の空いた机だって、君に出逢う前の僕なら何も感じることはなかっただろう。でも今の僕は、寂しくて辛くて仕方無い。きっと誰が悪い訳でもない。世界はあの頃と何一つ変わっていない。ただ僕が、君を好きになった、それだけの話だ。

 だから僕は、君と出逢って生まれ変わったんだ。

5/4/2024, 11:43:39 AM

『耳を澄ますと』

 耳を澄ますと君の笑い声が聴こえたような気がして、僕は思わず窓の外を見た。ついこの間桜が散ったばかりだというのに、入道雲は早くも青い空に広がり、初夏の入り口にいる僕らを見下ろしている。君の姿はどこにも見当たらない。

 君の笑い声はまさか幻聴だったのかな。流石にやばいなぁ僕、と自嘲気味に胸の内で呟いたところで、君がいたあの夏が戻ってくるわけでもない。今日も君は学校に来ていなくて、それが当たり前になっているこの世界はただただどうしようもなく生き辛い。中学生になって3度目の夏、君を好きになって3度目の夏。どんな気持ちでこの夏を受け入れればいいのだろう。

 化学式が黒板を埋めていく音だけが、君のいない初夏の教室に虚しく響いていた。

5/4/2024, 12:56:24 AM

『二人だけの秘密』

 私の好きな人は、毎週水曜日の5限をサボる。保健室に行くとか、家の用事で早退するとか、理由は様々だけど、きっとそれらは本当の理由ではない。何故なら、彼は水曜日が近付くといつもより表情が豊かになるからだ。彼のことが好きで、いつもその顔を見てばかりの私しか気付くことの出来ないような僅かな違い。でも私は確信している。きっと知らない方が私にとっては都合が良いことなのだろうが、どうしても知らずにはいられなかった。

「先生、頭が痛いので保健室に行ってもいいですか」

 水曜日の5限、私は初めて先生相手に仮病を使って授業を抜け出した。彼は授業間の休みのうちに抜け出したようで、授業開始時には既に教室にいなかった。

 彼の行く場所に心当たりは無いので、取り敢えず校内を歩き回ることにした。他のクラスの先生に見つからないよう、細心の注意を払いながら彼を探していると、図書室の入口に上履きがあるのを見つけた。

 音を立てないようそっとドアを開け、中に入る。本棚の隙間から奥を覗くと、彼の隣にもう一人の人影が見えた。私達と同じクラスにいる不登校の小川さんだ。二人は特別距離が近いわけではないので少し安心したが、楽しそうに談笑する姿に胸が痛む。

「いつも言ってるけど、あなた今授業中でしょ。こんなとこでサボってて本当に受験大丈夫なの?」
「うん俺頭良いし、お前に心配されなくても余裕でどこでも受かるよ」
「うーわうざいね。先生に言いつけてやろうかなぁ」
「待ってそれはまじで駄目」
「えーどうしよっかな」
などと話す二人はとても仲が良くて、彼の表情は今まで見たこともないくらい柔らかくて、そんな彼を独り占め出来る小川さんが羨ましくて仕方無い。

「んーまぁ、あなたのサボり癖のことは二人だけの秘密にしといてあげるよ」と小川さんが言うと、彼は悪態をつきながらも何処か嬉しそうにするのだ。

二人だけの秘密、誰もが憧れるロマンチックな言葉だが、その「二人」が自分では無いとこんな気持ちになってしまうのか。惨めな想いのまま、図書室を出た私は保健室に向かった。

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