『初恋の日』
中学校に入学したあの日、すぐに君のことを好きだと思えていたらどれだけ良かっただろう。
あの日、僕の隣の席に座って、誰とも話さず、人を寄せ付けない雰囲気を纏って読書に勤しんでいた君に抱いた第一印象は「大人ぶったウザそうな奴」だった。普通入学初日から読書とかしないだろ。何だこいつ。そう思ったのを鮮明に覚えている。自己紹介でも必要最低限の事しか話さないし、近くの席の人が話し掛けてもあからさまに嫌そうな反応をする。そんな君の態度が僕にとっては一周回って面白くて、それから毎日毎日僕は君に話し掛けた。
最初はただ嫌そうにするだけの君だったが、段々と返事をしてくれるようになり、そのうち僕が君をからかって、君もまた僕を挑発し、二人でくだらない小喧嘩を繰り返す仲になった。今考えれば本当に小学生みたいなやり取りだったと思うし、周りの皆も「喧嘩するほど仲が良い」という風に僕らのやり取りを気にも留めていなかった。僕達自身、喧嘩とはいってもお互い何処か楽しんでいるのを感じていたし、多少ヒートアップしてもどうせ隣の席なのだから次の日にはなんとなく元通りに戻っていて、そんな関係が変わらず続くように思っていた。
夏休み明けから君が徐々に不登校気味になっていき、やがて全く学校に来なくなると、僕の毎日は随分平和で味気無いものになった。授業中にこっそり喧嘩することも、朝早起きして相手の机に悪戯を仕掛けておくこともなくなる。言ってみればようやく普通の中学生らしくなったとも捉えられるのだが、気付いた時には君がいた毎日が愛おしくて、今が寂しくて、もう止められないくらいには好きになっていた。いなくなって初めて気付く初恋ほど阿呆らしいことはない。僕は今でも思う。君がいたあの頃に、この恋心に気付くことが出来ていれば、今とは違う僕達がいたんじゃないか、と。
5/7/2024, 1:24:36 PM