不登校な君に恋をした

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『二人だけの秘密』

 私の好きな人は、毎週水曜日の5限をサボる。保健室に行くとか、家の用事で早退するとか、理由は様々だけど、きっとそれらは本当の理由ではない。何故なら、彼は水曜日が近付くといつもより表情が豊かになるからだ。彼のことが好きで、いつもその顔を見てばかりの私しか気付くことの出来ないような僅かな違い。でも私は確信している。きっと知らない方が私にとっては都合が良いことなのだろうが、どうしても知らずにはいられなかった。

「先生、頭が痛いので保健室に行ってもいいですか」

 水曜日の5限、私は初めて先生相手に仮病を使って授業を抜け出した。彼は授業間の休みのうちに抜け出したようで、授業開始時には既に教室にいなかった。

 彼の行く場所に心当たりは無いので、取り敢えず校内を歩き回ることにした。他のクラスの先生に見つからないよう、細心の注意を払いながら彼を探していると、図書室の入口に上履きがあるのを見つけた。

 音を立てないようそっとドアを開け、中に入る。本棚の隙間から奥を覗くと、彼の隣にもう一人の人影が見えた。私達と同じクラスにいる不登校の小川さんだ。二人は特別距離が近いわけではないので少し安心したが、楽しそうに談笑する姿に胸が痛む。

「いつも言ってるけど、あなた今授業中でしょ。こんなとこでサボってて本当に受験大丈夫なの?」
「うん俺頭良いし、お前に心配されなくても余裕でどこでも受かるよ」
「うーわうざいね。先生に言いつけてやろうかなぁ」
「待ってそれはまじで駄目」
「えーどうしよっかな」
などと話す二人はとても仲が良くて、彼の表情は今まで見たこともないくらい柔らかくて、そんな彼を独り占め出来る小川さんが羨ましくて仕方無い。

「んーまぁ、あなたのサボり癖のことは二人だけの秘密にしといてあげるよ」と小川さんが言うと、彼は悪態をつきながらも何処か嬉しそうにするのだ。

二人だけの秘密、誰もが憧れるロマンチックな言葉だが、その「二人」が自分では無いとこんな気持ちになってしまうのか。惨めな想いのまま、図書室を出た私は保健室に向かった。

5/4/2024, 12:56:24 AM