『耳を澄ますと』
耳を澄ますと君の笑い声が聴こえたような気がして、僕は思わず窓の外を見た。ついこの間桜が散ったばかりだというのに、入道雲は早くも青い空に広がり、初夏の入り口にいる僕らを見下ろしている。君の姿はどこにも見当たらない。
君の笑い声はまさか幻聴だったのかな。流石にやばいなぁ僕、と自嘲気味に胸の内で呟いたところで、君がいたあの夏が戻ってくるわけでもない。今日も君は学校に来ていなくて、それが当たり前になっているこの世界はただただどうしようもなく生き辛い。中学生になって3度目の夏、君を好きになって3度目の夏。どんな気持ちでこの夏を受け入れればいいのだろう。
化学式が黒板を埋めていく音だけが、君のいない初夏の教室に虚しく響いていた。
5/4/2024, 11:43:39 AM