桜は映える。
どんなに小汚いものが置いてあったとしても、桜さえ近くに咲いていれば少しは緩和されるであろう。
そんな桜に恋をしているかのような私の考えは、すぐに却下された。
「はぁ〜?何言ってんの、アンタ。バカ?」
彼女は私の同級生、三村秀奈。
言葉を発した瞬間即却下された私の心は、もう早くもボロボロだった。
「猫が死んだ鼠食ってるところ見て可愛い〜!ってなるわけ?」
わざとらしく目をキラキラさせて演技をした三村に、私は少し眉を上げ反論した。
「そ、それはないけど。緩和されるってことだよ!」
「いや、緩和されないでしょ。」
反論虚しくすぐにビシッと指摘された私は、本格的に挫けそうになってきた。かれこれ十数分はこのくだりをしている。
「アンタ、ゴミ捨て場のすぐ隣に桜咲いてて汚いっていう気持ちは緩和されるの?私は桜よりゴミ捨て場の方に意識向くんだけど。」
「それよりもゴミ捨て場の隣に桜が咲くっていう文が気になるんだけど。なんでそんな所に桜植えんのよ。」
「例えでしょーが。」
呆れたように溜息をつく彼女に、私は項垂れながら窓の外を指差した。
「ほら、見てよあの桜の木。ちょー綺麗でしょ。汚いゴミ見てるより、こんな綺麗な桜見てた方がよっぽど清々しい気分になれるよ。」
「はぁ、確かに綺麗だけど……綺麗なものより汚いものに目が行くのが人間ってものなのよ。アンタ将来桜と結婚しそうね……。」
それは本望。
そう口にした途端、少し静寂が訪れた。
その静寂を破ったのは、彼女だった。
「アンタの目って、桜にだけキラキラフィルターついてそうよね。好きな人とかについてるようなやつ。」
生まれてこの方桜だけを愛し人間の想い人が出来たことのなかった私は、いまいちその例えがピンとこない。
思ったことをそのまま口にした私に、相変わらず呆れたような仕草をしながらも、その顔は笑顔だった。
「いつか好きな人が出来たら、アンタも分かるわよ。」
「……そっかぁ。」
その表情見て、少しだけ、キラキラフィルターというものがわかった気がした。
#フィルター 0910
「やっばい……」
次は体育の時間。校庭に集合してサッカーをやるそうだ。皆張り切ってすぐ校庭へ駆けていく中、私だけ教室に取り残されていた。そう、遅刻だ。
「さっさと着替え終わらないとチャイム鳴るじゃん……」
もはや半分ほど諦めながら少々急ぎめに着替えをしていた時。ふと、教室を見渡した。
先程までガヤガヤと騒がしかった教室に、いきなり静寂が訪れている。そんなことに、改めて気がついた。自分の声のみが響く場所。
「やばいそんなこと考えてる場合じゃない!」
ちょっとナイーブな方に考えが落ちていた。急いで切り替えやっと着替え終わる。
「急げー!!」
廊下を早歩きと走りが入り交じったような歩き方で歩いていった。
人の声が一切消えた、誰もいない教室。
カーテンが、開いた窓から入る風に揺られていた。
#誰もいない教室 0907
『先生っ、私が卒業したら、付き合ってください……っ!』
ページをめくる手を止め、そのままベッドに後ろから倒れる。
「はーぁ、そろそろこの展開見すぎたな……」
秘密の愛って憧れるよねぇ〜……
敵同士なのに付き合ってるーとか、王族と貧民の恋〜とか、それこそ同性愛とかだってそう。最近は少し認められつつあるけど、昔は全然認められてなかったっぽいし。
でもその中でも私のイチオシなのが〜……
生徒と先生の禁断の恋!!!
やっぱり身近だけど身近じゃないって言うか……年の差があるからこそのドキドキというか!!
現実じゃあ認められないし許されないけど……創作だからこそって感じの設定だよね。
最近生徒と先生の漫画ばっかり読んでるけど、そろそろ見過ぎて展開が分かっちゃうようになっちゃったんだよなぁ。ちょっと趣向を変えてみるか……
ここまでが昨日までの私。
あの後早速実行ってことで、本屋に行ってみた。
色々興味深い漫画が置いてあったけど……いまいちすごいグッとくるような作品が無かったんだよね……。
もちろん漫画は全部素敵だったけど、今日は趣向を変えるために来たんだ。って感じで、少女漫画じゃなくて少年漫画を見てみた。
そしたらなんと、めっちゃ心に来たんだよね!
少年漫画に興味が出たから、お試しで一冊、二冊くらい買って店を出た。
そして今に至る。
少年漫画に心打たれ過ぎて、あれから何度もあの本屋さん訪れている。
つまり、私はもっと好きな本の幅が増えたということ!やっぱりたまにはこういうのも大事だな、って思ったよ。相変わらず秘密の愛とか禁断の恋とかは好きだけどね。
ちなみに、そのご贔屓にしてる本屋の店員さんとちょっといい感じなんだけど……
恋愛禁止らしいし、これも秘密の愛……だよね?
#secret love 0903
去年よりも少なくなったような蝉の声に耳を傾けながら、私はバスの中で暑さを凌いでいた。
「もう夏休みも終わりかぁ〜」
今日は夏休み最後という事で友達と遊ぶことになっている。窓の外に視線を向けながら、感傷に浸っていた時。
目的地に着いた私は席から立ち上がりバスから降りた。
「なおちゃーん」
少し歩いたところに友達が見えた。
「お待たせ〜、待たしてごめんな」
「大丈夫やで!全然待ってへんし」
「ありがとうな」
どこぞのカップルのような会話を済ませて、私達は花火大会の会場へと向かった。
まだ花火には早い、午後5時のことだった。
#8月31日、午後5時 0831
※エセ関西弁です、不快な思いをさせてしまったらすみません
私達はふたりでひとつ。
生まれた頃から一緒に生きて、何をするもずっと一緒。
頭と頭をくっつけて、一緒に寝てた頃が懐かしいなぁ。
さて、そんな私達はもうすぐいなくなるみたい。
お医者さんにもそう言われちゃった。
けつごうそうせいじ?っていうやつらしい。
「みーちゃん、私達もうすぐいなくなっちゃうんだって。」
「かなしいね、にーちゃん」
生まれた頃から頭をくっつけていた私達は、なんだか周りから変な目を向けられていた。
お父さんとお母さんは毎日謝ってきた。私達には、何でかはわからなかったけど。
それでも愛してくれていることはわかってたから、良いけどね。
今日で私達の命は消えちゃうけど、ここにちゃんと居たっていう事実は消えないよね。
私たちは最期まで頭をくっつけて、手を繋いで寝た。
#ふたり 0830