桜は映える。
どんなに小汚いものが置いてあったとしても、桜さえ近くに咲いていれば少しは緩和されるであろう。
そんな桜に恋をしているかのような私の考えは、すぐに却下された。
「はぁ〜?何言ってんの、アンタ。バカ?」
彼女は私の同級生、三村秀奈。
言葉を発した瞬間即却下された私の心は、もう早くもボロボロだった。
「猫が死んだ鼠食ってるところ見て可愛い〜!ってなるわけ?」
わざとらしく目をキラキラさせて演技をした三村に、私は少し眉を上げ反論した。
「そ、それはないけど。緩和されるってことだよ!」
「いや、緩和されないでしょ。」
反論虚しくすぐにビシッと指摘された私は、本格的に挫けそうになってきた。かれこれ十数分はこのくだりをしている。
「アンタ、ゴミ捨て場のすぐ隣に桜咲いてて汚いっていう気持ちは緩和されるの?私は桜よりゴミ捨て場の方に意識向くんだけど。」
「それよりもゴミ捨て場の隣に桜が咲くっていう文が気になるんだけど。なんでそんな所に桜植えんのよ。」
「例えでしょーが。」
呆れたように溜息をつく彼女に、私は項垂れながら窓の外を指差した。
「ほら、見てよあの桜の木。ちょー綺麗でしょ。汚いゴミ見てるより、こんな綺麗な桜見てた方がよっぽど清々しい気分になれるよ。」
「はぁ、確かに綺麗だけど……綺麗なものより汚いものに目が行くのが人間ってものなのよ。アンタ将来桜と結婚しそうね……。」
それは本望。
そう口にした途端、少し静寂が訪れた。
その静寂を破ったのは、彼女だった。
「アンタの目って、桜にだけキラキラフィルターついてそうよね。好きな人とかについてるようなやつ。」
生まれてこの方桜だけを愛し人間の想い人が出来たことのなかった私は、いまいちその例えがピンとこない。
思ったことをそのまま口にした私に、相変わらず呆れたような仕草をしながらも、その顔は笑顔だった。
「いつか好きな人が出来たら、アンタも分かるわよ。」
「……そっかぁ。」
その表情見て、少しだけ、キラキラフィルターというものがわかった気がした。
#フィルター 0910
9/10/2025, 8:46:16 AM