私は映画を観るとすぐに泣いてしまう。
ギャグだってファンタジーだって犯罪やサスペンスだって、感動系じゃなくともなんでも泣く。
だが、そんな私も唯一泣かない物語がある。
感動モノだ。
何故だか分からないが、いざ感動系!という感じの物語となると、途端に涙が出てこなくなるのだ。
共感や同情はするが、目が腫れるくらい大泣きすることも、涙が一滴ぽろっと零れ落ちることも、何一つ無い。自分でも意味がわからなかった。
感動以外なら泣ける理由も分からない。泣く要素なんて一つも無いのに。
でも、なんだか。
日常的な物語の方が、いつかの終わりを考えて、悲しくなってしまうのだ。
#涙の理由 0927
僕と一緒に
歩いて
走って
遊んで
生きて
死んで
生まれ変わって
また共に
一生のサイクルを僕と一緒に
過ごしてくれませんか。
#僕と一緒に 0923
魔法がある世界に産まれていたら、どうなっていただろうか。
きっと、その世界では魔法があることが当たり前なのだから、この世界とはまた別の悩みの種を見つけるのだろう。
でも、本当に辛くなってしまった時。
私は、いつも考えてしまう。
魔法があれば、こんな思いしなくて済んだんじゃないかって。
魔法があれば、もっと息を吸える世の中になったんじゃないかって。
そんなの私には分からないし、この世界に産まれた限りそんな事分からない。
答えは、まだ無い。
#答えは、まだ 0916
桜は映える。
どんなに小汚いものが置いてあったとしても、桜さえ近くに咲いていれば少しは緩和されるであろう。
そんな桜に恋をしているかのような私の考えは、すぐに却下された。
「はぁ〜?何言ってんの、アンタ。バカ?」
彼女は私の同級生、三村秀奈。
言葉を発した瞬間即却下された私の心は、もう早くもボロボロだった。
「猫が死んだ鼠食ってるところ見て可愛い〜!ってなるわけ?」
わざとらしく目をキラキラさせて演技をした三村に、私は少し眉を上げ反論した。
「そ、それはないけど。緩和されるってことだよ!」
「いや、緩和されないでしょ。」
反論虚しくすぐにビシッと指摘された私は、本格的に挫けそうになってきた。かれこれ十数分はこのくだりをしている。
「アンタ、ゴミ捨て場のすぐ隣に桜咲いてて汚いっていう気持ちは緩和されるの?私は桜よりゴミ捨て場の方に意識向くんだけど。」
「それよりもゴミ捨て場の隣に桜が咲くっていう文が気になるんだけど。なんでそんな所に桜植えんのよ。」
「例えでしょーが。」
呆れたように溜息をつく彼女に、私は項垂れながら窓の外を指差した。
「ほら、見てよあの桜の木。ちょー綺麗でしょ。汚いゴミ見てるより、こんな綺麗な桜見てた方がよっぽど清々しい気分になれるよ。」
「はぁ、確かに綺麗だけど……綺麗なものより汚いものに目が行くのが人間ってものなのよ。アンタ将来桜と結婚しそうね……。」
それは本望。
そう口にした途端、少し静寂が訪れた。
その静寂を破ったのは、彼女だった。
「アンタの目って、桜にだけキラキラフィルターついてそうよね。好きな人とかについてるようなやつ。」
生まれてこの方桜だけを愛し人間の想い人が出来たことのなかった私は、いまいちその例えがピンとこない。
思ったことをそのまま口にした私に、相変わらず呆れたような仕草をしながらも、その顔は笑顔だった。
「いつか好きな人が出来たら、アンタも分かるわよ。」
「……そっかぁ。」
その表情見て、少しだけ、キラキラフィルターというものがわかった気がした。
#フィルター 0910
「やっばい……」
次は体育の時間。校庭に集合してサッカーをやるそうだ。皆張り切ってすぐ校庭へ駆けていく中、私だけ教室に取り残されていた。そう、遅刻だ。
「さっさと着替え終わらないとチャイム鳴るじゃん……」
もはや半分ほど諦めながら少々急ぎめに着替えをしていた時。ふと、教室を見渡した。
先程までガヤガヤと騒がしかった教室に、いきなり静寂が訪れている。そんなことに、改めて気がついた。自分の声のみが響く場所。
「やばいそんなこと考えてる場合じゃない!」
ちょっとナイーブな方に考えが落ちていた。急いで切り替えやっと着替え終わる。
「急げー!!」
廊下を早歩きと走りが入り交じったような歩き方で歩いていった。
人の声が一切消えた、誰もいない教室。
カーテンが、開いた窓から入る風に揺られていた。
#誰もいない教室 0907