私達はふたりでひとつ。
生まれた頃から一緒に生きて、何をするもずっと一緒。
頭と頭をくっつけて、一緒に寝てた頃が懐かしいなぁ。
さて、そんな私達はもうすぐいなくなるみたい。
お医者さんにもそう言われちゃった。
けつごうそうせいじ?っていうやつらしい。
「みーちゃん、私達もうすぐいなくなっちゃうんだって。」
「かなしいね、にーちゃん」
生まれた頃から頭をくっつけていた私達は、なんだか周りから変な目を向けられていた。
お父さんとお母さんは毎日謝ってきた。私達には、何でかはわからなかったけど。
それでも愛してくれていることはわかってたから、良いけどね。
今日で私達の命は消えちゃうけど、ここにちゃんと居たっていう事実は消えないよね。
私たちは最期まで頭をくっつけて、手を繋いで寝た。
#ふたり 0830
朝。
夏独特の匂いがする。
気まぐれにカーテンを開けて外を見れば、緑色の夏草がそこら中に生い茂っていた。
今日は何故だか目覚めが良い。いつもなら起きてからも暫くゴロゴロと布団の上をのたうち回っているが、今日はすぐに立ち上がることが出来た。
考え事もそこまでに、開けたカーテンをそのままにしてキッチンへ向かった。
朝食はいつもトーストをチンしてそのまま食べているが、やはり何故か気分が良いので少し焼いたトーストにレタスやハムを挟んでみた。
たまにはこういうのも良いな、と思いながらトーストを貪っているうちに、手元から無くなってしまった。
外に出て散歩をしてみる。
明るい水色の空に緑色の夏草。さっき窓から見た景色を間近で見てみると、少し嬉しくなった。
「おはよう」
誰も居ない青空と生い茂る夏草に向かって、まだ言っていなかった挨拶をした。
#夏草 0828
君が足りない物はここにある。
だから、おいで。
貴方は私の目を見てそう言った。
だけど、私はその目に応えなかった。
だって、その目には後悔の色が滲んでいたから。
だから、私は逆に言ってやった。
「私が足りないのは、貴方の方なんじゃない」
貴方は今にも涙が溢れそうな目を見開いて、私のお墓の前で辺りを見渡した。
「私は何時までも待ってるから、長生きして」
遂に零れ落ちた涙が地面を濡らした直後、貴方はこう言った。
「愛してる」
貴方が足りないものは、ここにある。
#ここにある 0827
あと一歩だけ歩けば辿り着くそこに、僕は行けなかった。
チャンスを求めたのは僕なのに、無様なものだ。
でも、もう一歩だけ。もう一歩だけ、進ませて欲しかった。
君に、追い付きたかった。
#もう一歩だけ、 0825
遠くで雷の音がする。
きっと今日も俺は眠れないだろう。
小さい頃に雷で停電した日から、俺は雷が大の苦手だ。布団の中に篭もりながら、両耳をイヤホンで塞ぐ。
音楽を聴いて気を紛らわせているが、まだ少し雨と雷の音が耳に入る。
顔を顰めながらも音楽に集中しようと体制を整えると、雨と雷以外の音が聞こえてきた。
「── の、─ です ─」
…声?
俺は一人暮らしだった筈だ。人の声が聞こえるわけが無い。気のせいだと思っても聞こえてくるその声モドキに、俺は少し恐怖していた。
「あ ──、大 ─ 夫で──?」
耳をもう少し済ませてみる。
「あのー、大丈夫ですかー?」
本当に人の声だということに驚いた。
驚きのあまり思わず叫ぶ ──ということは無かったが、驚いたのには変わりない。
いつまでも声を上げない俺に痺れを切らしたのか、声の正体は布団を剥いできた。
目を見開き顔を顰めている俺を見て、吹き出した。
「すみません、驚かせて。私、元々この家の住人で…怖がってたので思わず出てきてしまいました。」
その女の話によると、女は昔この家に住んでいたが事故で亡くなり、暇になったので次ここに引っ越してきた俺を観察していたらしい。
「自分でも姿が現せるとは思いませんでしたけど…」
彼女は苦笑いしながらそう言った。その瞬間、俺はこの家が事故物件として紹介されていたことを思い出した。
「…そうですか」
「あの、良かったら子守唄でも唄いましょうか?」
「は?」
「あっいや、あの、他意は無いんです。ただ、眠れなさそうにしてたので…」
「……」
確かに俺だって雷のせいで眠れないなど御免だが、見知らぬ女性に子守のように眠らされるのも俺のプライドが許さない。
「あの…駄目ですかね…?」
女性経験の無い俺には断ることが出来なかった。
こうして、この女性と俺の妙な生活が始まった。
#遠雷 0823