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遠くで雷の音がする。
きっと今日も俺は眠れないだろう。

小さい頃に雷で停電した日から、俺は雷が大の苦手だ。布団の中に篭もりながら、両耳をイヤホンで塞ぐ。

音楽を聴いて気を紛らわせているが、まだ少し雨と雷の音が耳に入る。
顔を顰めながらも音楽に集中しようと体制を整えると、雨と雷以外の音が聞こえてきた。

「── の、─ です ─」

…声?
俺は一人暮らしだった筈だ。人の声が聞こえるわけが無い。気のせいだと思っても聞こえてくるその声モドキに、俺は少し恐怖していた。

「あ ──、大 ─ 夫で──?」

耳をもう少し済ませてみる。

「あのー、大丈夫ですかー?」

本当に人の声だということに驚いた。
驚きのあまり思わず叫ぶ ──ということは無かったが、驚いたのには変わりない。

いつまでも声を上げない俺に痺れを切らしたのか、声の正体は布団を剥いできた。
目を見開き顔を顰めている俺を見て、吹き出した。

「すみません、驚かせて。私、元々この家の住人で…怖がってたので思わず出てきてしまいました。」

その女の話によると、女は昔この家に住んでいたが事故で亡くなり、暇になったので次ここに引っ越してきた俺を観察していたらしい。

「自分でも姿が現せるとは思いませんでしたけど…」

彼女は苦笑いしながらそう言った。その瞬間、俺はこの家が事故物件として紹介されていたことを思い出した。

「…そうですか」

「あの、良かったら子守唄でも唄いましょうか?」

「は?」

「あっいや、あの、他意は無いんです。ただ、眠れなさそうにしてたので…」

「……」

確かに俺だって雷のせいで眠れないなど御免だが、見知らぬ女性に子守のように眠らされるのも俺のプライドが許さない。

「あの…駄目ですかね…?」

女性経験の無い俺には断ることが出来なかった。

こうして、この女性と俺の妙な生活が始まった。


#遠雷 0823

8/24/2025, 5:50:12 AM