閉ざされた日記がある。
中学の頃の記憶がすっかり見当たらないのだ。
ページを破ったわけではないし、燃やした訳でもない。せいぜい水分でふやけた紙が乾いた程度だろうから開こうと思えばきっと開くのだろうけれど、ちょっとでも触ろうとするとどこからともなく白いペンキがなだれてきて見失い、見つけた頃にはまたカピカピになっている。
なんだかやんちゃをしていたような気もするし、大人しかったような気もするし。ただ思い出そうと思うとセーブが掛かるように僕はできているらしいので、まあいいか、となる。
思い出そうとしていない時にふと、ポロリと口をついてでる昔話には驚くことがあるけど。
思い出せないのなら大したことでは無いだろう。
思い出さない方がいいことだってあるし。
多分。
思い出せない。
思い出したくもないのかも知れない。
深層心理とは己の知らない所を担っているけれど、ぼくだろうから、放っておいてやろう。仕方の無いやつだ。
ぼくは。
明日も過去を忘れて生きていくんだろう。
日記を閉ざしたまま。
手放した時間分だけ夢が小さくなったような気がする。
ずうっと息を吹き込み続けていた心の臓が止まりあっという間に萎み、気の抜けた希望だけが皮となって残っている。
僕の努力というのは、これまでの時間というのは、こんなもので死を迎えてしまうのかと。存外呆気なくしかし正しいものであったなと。仕方がないから文末に句点を添えた。
夢の断片を繋ぎ合わせて今日もギリギリ君を見つける
抱きしめると君はゆるりと笑って霞む。
彼女が霞んでいるのか僕の目が霞んでいるのか定かではないが彼女の笑顔が見えてほっとする。
君のいるべき場所はここなんだから。
彼女の甘い茶髪を撫でながら思う
またあしたもこうして居られるならなんだってするのに。
君は見透かしたように目を見つめてきてだめだよーと首を傾げそっぽを向いた。
なんでと聞くとしばらくの沈黙の後に
だってねぇ、私死んでから今日で48日だからさあ。
ぽつりとこぼした。続けて
あなたは元の日常をこなさなくちゃいけないし、私はここを離れなくちゃいけない。わかってるでしょう?あなた頭いいもん。
君と出会った時より頭は良くないよ
君が絡むとどんどん理論が崩れていってぐちゃぐちゃないまぜになるのにそれが心地よくて楽しくてすっかりお花畑にされてしまったから
ずっと夢をみていたようだった。
あのね、ずっと言ってたけど
君の少し色素の薄い瞳と髪とお世辞にも良いとは言えないスタイルと控えめな凹凸もお喋りな口もすこしだらしない所もすべてが愛おしくてたまらなかったのに
私あなたのこと大好きだよ。
僕も、この世界で1番君が大好きだ。
0時の時計とデジタルカレンダーの音がかちりと泣いた。
秘密の標本を持っている
その訳は実に単純でただひとつの憧れだった
研究材料に、ひとり。
実践用に、ふたり。
失敗したので、さんにん。
よにん、ごにん、ろくにん、
また、失敗
また
また
また。
なぜ上手くいかないのだろう
だがしかしここで諦めてしまっては私が生きている意味が無くなってしまう。私の追い求めていたものに価値が無くなってしまうなんてことはあってはならないのだ、だって、
若く、儚いその音吐はまさに至高そのもの!!紡がれる歌声のなんと素晴らしいことか!なんとしても未成熟のままの歌声を永遠に響かせられる完璧な少年をつくらねば。この世で最も究極な美を私がつくりあげるのだ!!不滅、未熟、なんて心揺さぶられるのだろう。
この大量の屍は大切に愛でようじゃないか、大切に、綺麗に、標本として。
秘密の箱を持ってきて中をニコニコと眺める。
これは3年前の。これは1年前の。沢山の大事なモノや作品、僕のあらゆる心をしまい込んである、いわゆる ”たからばこ” だ。
たまに覗こうとする他人もいるがそれらはだいたいこう言うのだ。
「なぁんだ、空っぽじゃないか。本当に君はつまらない人間だな」と。
それでいいのだ。間違えではない正しいことを言っている。それが ”他空箱” たる所以であるから。
僕は今日も一人で 宝箱 を埋める。