るね

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4/28/2025, 11:29:07 AM

またファンタジー。1,200字程です。
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【夜が明けた。】




 夜が明けた。そんな実感は全くないのだが。奮発して買った懐中時計が、今はもう朝だと告げている。

 実感がないのも当然だ。ここは迷宮の中で光なんて届かない。俺たちを照らすのは地面の焚き火と燈火の魔法で出した光の玉。周囲の深い闇と比べると心許ない明かりである。

 俺は今、遭難中だ。迷宮の地形はごく希に変わることがあると先輩冒険者から聞かされてはいた。けど、まさか新しい道を見つけた先に、転移罠があるなんて。

 罠を踏んだのは俺だけで、本当なら俺がひとりで遭難するはずだった。だけど。転移が発動する寸前、ポーターとして雇った少年が俺の腕を掴んでついて来てしまった。

 ポーターというのは荷物持ちだ。収納魔法が使えたり魔法鞄を持っていたりするやつが、他の冒険者の代わりに荷物を運ぶのだ。食料や予備の装備や、倒した魔獣の素材なんかを。

 ポーターがいれば他の冒険者たちは戦闘に専念できる。けど、優秀なポーターは雇うと高い。今回雇った少年は、彼を一切戦わせないという条件で安く雇われてくれたのだ。だから正直、何も期待していなかった。

 それなのに。わざわざ俺について来た少年は、実はとんでもない大容量の収納魔法が使えたらしい。

 新鮮な野菜を出してスープを作ってくれたり果物を切ってくれたり、しかもそれをテーブルと椅子を並べて食わせてくれたり。それだけでもかなりの規格外だ。

 休もうと言ったら、寝るならどうぞとベッドを出されて、俺はもう「は?」としか言えなかった。

 なんだそれ。迷宮の中だぞ。それも遭難中。

 普段の迷宮探索よりも数段快適な遭難生活。いくら収納魔法があるからって、家具がぽんぽん出てくるなんて。どういうことだよ。聞いたこともない。しかもこの少年、めちゃくちゃ強いのだ。

 本人いわく、冒険者ランクが上がったら専属にならないかという貴族からの話があって、それがどうしても嫌なので、昇級したくないし目立ちたくないのだと。
 だから昇級の条件を満たさないようにポーターとして活動しているらしい。

 それなのに、転移罠を踏んだ俺を見て、助けなきゃと思ってくれたという。ありがたい……

 俺が起きたことに気付いた少年が、ベッドを振り返って言う。
「おはようございます。食事、できてますよ」

 何なのこの子。何がしたいの。もしかして生還したら大金請求されるのか、俺。

「……どうしました?」
「いや。こんなに良くしてもらっても俺には何も払えないぞ?」
 いいんですよと少年が笑う。
「その代わり僕のことは黙っていてください。何も変わったことはなかった。いいですね?」

「あ、ああ」
 俺はこくこくと頷いた。
 頷かなければいけないと思った。下手をすれば命はないと。

 だって、燈火魔法で照らされた少年の目が。その瞳孔が。すうっと縦に細くなって剣呑に光ったのだ。それは爬虫類じみて恐ろしかった。まるで、気紛れに人間の近くに現れるという、伝説の竜の目。

 竜は気に入った人間を助けるというけれど。
 いや、まさか。まさか……ね。



4/27/2025, 1:56:34 PM

長いです。1,000字弱です。BLか……?
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【ふとした瞬間】




 僕がいきなり異世界に落ちてきた日から、まだ一年も経っていないと思う。とはいえ、いつまでも『この世界で最初に出会った人間だったから』なんて理由で、恩人の世話になり続けることはできなかった。

 自立するためにやれることはやると決めた。心配はされたけれど、部屋を借りて、ひとり暮らしを始めた。

 仕事は冒険者。ここは迷宮が近い冒険者の町だったから。戸籍がないなら他にできる仕事はあまりないと言われたから。ほぼ選択肢がなかったんだ。

 幸い魔法が使えて、どうにか暮らせている。日本にいた時よりも、毎日充実していると思う。それでもふとした瞬間、たまらなく寂しくなるのは仕方がないだろう。

 ここには家族がいない。親しい友人もいない。SNSやゲームの話なんてできる相手はいない。漫画もアニメもない。

 今更、帰ることは諦めている。でも、ここにいると自分の記憶が……日本という平和な国で生きていたこと自体が、現実だったのか信じられなくなってきて不安だった。







 ある日。迷宮から帰ってきた僕が冒険者ギルドで魔石を換金しようとしていた時。突然、男に腕を掴まれた。

「お前。もしかして日本人か!?」

 男の顔を見て『同類』だと確信し。僕は人目も憚らず泣いた。それくらい孤独だったんだ。

 その男は僕よりもずっとランクが上の冒険者だった。僕の話を熱心に聞いてくれて、この世界の人間には通じない懐かしい単語がたくさん口から溢れ出た。

「え、ここに来てまだ一年? ほとんど赤ちゃんじゃねぇか!」
 お前はよく頑張っていると思うと言われて、僕は更に泣いた。

 男は僕に魔法のコツや戦い方、効率がいい迷宮の歩き方を教えてくれた。代わりに僕が提供したのは料理だった。

「お前に会えて良かったよ。この国、米はあるのになんでか家畜の餌だろ。俺は料理なんて全然できないからさ、自分じゃ鍋でご飯炊くなんて無理だった」
 今度ハンバーグ作ってよ、と男が笑う。

 僕が急に、この町の冒険者の中でも稼ぎ頭と言っていい男の相棒になったことで、妬まれることも少なくない。彼が今まで誰とも組んでいなかったから尚更だ。

 でも、僕と相棒の間には、他の誰かとは共有できないものがある。そう簡単にこの場所を譲るつもりはない。彼と釣り合うように強くなりたい。なれるはずだ、今の僕なら。

 もちろん、ハンバーグは作ってやるとも。



4/26/2025, 11:56:50 AM

BLです。ご注意ください。
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【どんなに離れていても】





 初めて対峙したはずの勇者に、玉座の魔王が言った。
「ずっとお前を待っていた」
 魔王は鮮やかな赤色の目を細め、愛しい者を見るかのようにうっとりと微笑んでいた。

「今のお前は光。私は闇。我々の存在は互いに遠いところにある」
「……なんの話だ」
 勇者は聖剣を構えて青い目で魔王を睨んだ。

「我々は惹かれ合うという話だ」
 魔王がゆらりと玉座から立ち上がった。
「どんなに離れていても、私にはお前が、お前には私が、唯一無二なのだ。そうだろう?」

 魔王は笑って、腕を広げた。まるで抱擁を待つかのように。
「私を殺せるのはお前だけ。しかし、お前を殺せるのも私だけのはずだ。人の理を超えた哀れな者よ。女神も『愛し子』などと言いながら随分と残酷なことをする」

 勇者が何を考えたのか。聖剣の切先が微かに震えた。すぐに仲間から「魔王の話など聞いてはいけない!」と檄が飛ぶ。

「私を殺せ、勇者。もう生きるのも飽いた」
 勇者が聖剣を構え直す。
「いいだろう。その願い叶えてやる」
 聖剣が無抵抗な魔王の胸を刺し貫いた。腰に届くほどの長さがある魔王の銀髪が血に濡れる。

 虚ろな目をした魔王が呟いた。
「また会おう、半身よ……」

 勇者はその後二百年生きて、次の魔王となった。その魔王と相討ちになった新しい勇者は、銀髪に赤い目をしていた。








「……と、いう記憶があるのだが」
 幼馴染にとんでもないことを言われて、僕はぱちぱちと瞬きした。

 確かに僕は銀髪で目が赤いし、幼馴染の目はきれいな青だ。
「僕と君が、勇者と魔王を繰り返しているって言うの?」

「違う。繰り返して『いた』んだ。過去形だよ」
 意味がわからなくて、僕は首を傾げた。
「やっと同じ年代に、こんなに近くに転生できた。俺はお前が魔王になるなんて許さないし、お前が居てくれるなら魔王になんかならない」

 だから一緒に居てくれと幼馴染は言う。
 それはなんだかとても情熱的な愛の告白のように聞こえて、僕は真っ赤になって頷いた。



4/25/2025, 10:29:44 AM

私はいつも『お題の文言をできるだけそのまま本文に一度以上入れる』という縛りで書いておりまして、今回はどうしてもこれくらいしか思いつきませんでした……!
今日のお題難しいです。

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【「こっちに恋」「愛にきて」】





 待ち合わせの時間が迫っていた。私は寝坊した己を呪いながら、慌てて家を飛び出した。
 移動中、スマホから『ごめん、遅れる』と連絡を入れれば、友人からの返信は『早くこっちに恋』という……

 誤字は誰にでもある、仕方がないよな。そう思って一度は見逃した。目の前で電車のドアが閉まって、更に遅れることが確定し、もう一度詫びの連絡を入れると、今度の返信は『待ってるから愛にきて』だった。

『何それ。わざと?』
 新しい遊びかと尋ねれば、友人からは『あんまり急かしたくないから』『責められてる気がしなくていいでしょ』という返事。
『うん……確かに?』

 優しい友に感謝しつつ、でもまあ、イマイチ笑えないけどな、と思いながら。結局一時間近くも待たせてしまって。
「カフェで何か奢るから許して!」
 私はそう謝り倒したのだった。



4/24/2025, 11:11:54 AM

【巡り逢い】



 僕は不気味な子供だと思われていたらしい。最低限しか泣かず、子供らしくはしゃぐこともあまりなくて、大人の話にじっと聞き耳を立てて、癇癪もほぼ起こさず、異様に聞き分けが良いのだから、周りが何かおかしいと感じたのも仕方がないだろう。

 村の同年代の子供とは馴染むことができないまま僕は10歳になった。そしてたまたま村に立ち寄った薬師に声を掛けられた。

「君、もしここに居づらいなら、私の弟子になるかい?」
 僕はその言葉に頷いた。両親もあっさりと僕を手放した。大きくもない田舎の農家だ、四男の僕には継げるものもなくて、どうせいつかは村を出なきゃいけなかったんだ。

 この巡り逢いが僕の人生を大きく変えた。
 まさか師匠がただの薬師じゃなくて『戦う薬師』だとは思っていなかった。

 僕は回復薬の作り方よりも毒薬の調合を重点的に仕込まれた。弓矢の扱いを習い、投擲用のダガーを渡され、それに毒を塗り魔獣と戦った。

 同時に魔法の使い方も習った。元々、師匠が僕に声を掛けたのは僕の魔力が多かったかららしい。僕は魔法士としてもそこそこ優秀だと言われている。

 僕がかなりの大怪我をしても師匠が治してくれる。師匠の回復薬は効果がめちゃくちゃだった。僕が左腕を魔獣に喰い千切られた時も綺麗に治してしまった。それはありがたいことだったけど、治ればまた戦わなきゃならない。

 ある日師匠が「そろそろ良いかな」と呟いた。そして、僕を連れて国境を越えた。小さな国をひとつ横断して更に隣の国へ。

 その国の王都に着いてすぐ、師匠と僕は沢山の騎士に取り囲まれた。騎士の間からなんだか偉そうな人が出てきて、師匠を「賢者殿」と呼んだ。

「勝手に留守にされては困ります。あなたが不在のまま何年経ったと思っているんですか!」
「だって、宰相が言ったんでしょう。『隠居したいなら後継者を連れてこい』って」
「……そりゃあ、言いましたけど……」
 え。この偉そうな人、この国の宰相なの。

 わけがわからないまま僕は城に連れていかれた。師匠はこの国で賢者と呼ばれていた。王族の体調管理にも関わっていて、子爵の地位を持っていた。僕は師匠と養子縁組されていて、つまり、子爵の息子になっていた。

 僕は師匠と一緒にお屋敷に住むことになった。魔獣とは戦わなくなったけど、貴族としての礼儀作法を叩き込まれている。

「早く成人してくれよ。私はさっさと隠居したいんだ」
 師匠が微笑んで無茶なことを言う。
「成人したばかりのひよっこに『賢者』が務まるわけないでしょう!」
「君ならやれるよ」
「無理です!」

 今、宰相閣下と僕、それに魔法士団と騎士団の団長たちは、どうにかして師匠をこの国に留まらせようと知恵を絞っている。



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