ファンタジーしか書けませんでした。
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【高く高く】
飛竜乗りになったのは、ただ高く高く飛びたかったから。卵の頃から育てた相棒と、どこまでもどこまでも、高く速く遠くへ。
最初の仕事は手紙の配達。
忘れ物の書類を急ぎで届けて、なんて依頼もあったなあ。
プレゼントを日時指定で運んだり。
空から花びらを撒いたこともある。あれはプロポーズの演出で頼まれたんだよな。
飛ぶのが楽しかった。
役に立てれば嬉しかった。
いつからか、国からの依頼が増えて。
食料を運んだ。酒を運んだ。薬を運んだ。
そこまではまだ良かった。
武器を運べと言われた。
断れなかった。
そして今日。
「運べ」と置いていかれたのは油の樽。
上空から敵陣に落とせってさ。
火矢を射掛けるんだってさ。
どれだけの犠牲が出るのだろう。
竜舎で相棒が「クルクル」と鳴く。
僕に甘える時の声だ。
美しくて気高くて可愛らしい生き物。
こいつを戦争の兵器にするなんて。
幸い今夜は雲が厚い。
月も暗く、星は見えない。
僕は相棒に鞍を乗せた。
暗闇は僕には何も見えないけれど。
こいつはちゃんと飛んでくれる。
さあ、行こうか。
高く高く、遠く遠く。
誰も知らない、どこか平和な場所まで。
好みがすごく分かれそうなお話……かも
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【子供のように】
悪役令嬢ってものに転生したらしい。
小説投稿サイトとかライトノベルでは人気のジャンルだってことは知っていたけど、まさか自分が巻き込まれるなんて。
第一王子の婚約者になんかなりたくなかったのに、避けられなくて。
侯爵令嬢として恥ずかしくないように、将来の王妃として務めを果たせるように、厳しく躾けられ勉強の日々。
貴族らしく、令嬢らしく、常に上品に微笑み、感情を隠し、婚約者の王子がボンクラでもどうにか手綱を握って国のためにと尽くして……
それなのに。
やっぱり私は悪役令嬢で。
王子はあっさりとヒロインに心変わり。
市井で育ったという、ピンクの髪の男爵令嬢。
これでもかというくらいのテンプレで、聖女と呼ばれる彼女は子供のように無邪気に笑う。
狡い、と思った。
婚約者を攫ったヒロインが……ではない。
王子が、狡い。と思ったのだ。
私だってその子とお友達になりたい。
一緒にカフェに行って、街を歩いて。
アクセサリーを買ったり、お喋りしたり。
二人で遠乗りに行って、花畑を見たり。
人目を気にせず、笑い転げたりしたい。
婚約なんて、破棄でいいから。
そこを代わってよ王子様。
私にはできない。
侯爵令嬢だから。悪役だから。
あの子はヒロインだから。
…………本当に?
王子の心を癒せるヒロインなら。
光の聖女様なら。
悪役令嬢を救ってくれたっていいじゃない。
話しかけてみよう。
歩み寄ってみよう。
本音を打ち明けて、仲良くしようって……
物語は破綻した。
私たちは、私と彼女は。
国も王子様も放り出して、
今は隣国で冒険者をしている。
子供のように笑いながら。
【放課後】
学校からの帰り道はいつもお腹が空いていた。
途中にお肉屋さんでもあれば、コロッケなりメンチカツなり買い食いしていただろう。
残念ながらなかったので、自販機でコーンスープを買っていた。寒い時期にしかないのが寂しかった。
放課後に教室に残ることもなく、身体を動かすのは苦手な私でもそうだったのだから、運動部の男子なんて、一体どうやって空腹を凌いでいたのだろう。
そろそろ自販機にコーンスープが並ぶだろうか。
あれを見ると学生時代のお腹を空かせた自分を思い出す。
【カーテン】
私の部屋には開かずのカーテンがある。
大きな窓で、日差しがよく入るだろうと思っていた。でも、利点を上回る問題があった。
近すぎるのだ、隣の家に。
カーテンを開けると、すぐ目の前にはお隣さんの窓。
部屋の中が見えそう。と言うか、見える。
もし、カーテンを開けて目でも合ったら気まずくて仕方がないな……そう思った私は、その窓を封印すると決めた。
以来、一年近く、カーテンを開けていない。
最後に開けたのはエアコンの不調を見てもらった時だったか。
もったいないことだと思う。
せっかく大きな窓があるのに。
でも、角部屋でもうひとつ窓があるから、明るさには困っていない。
大きな窓がある部屋で暮らしてみて感じたのは壁が足りないということ。
壁が足りないとどうなるか?
家具が置きにくいのだ、とても。
次に引っ越すことがあれば、ここまで大きな窓は要らないなぁと思っている。
【涙の理由】
感受性が強すぎる子供だった。
自分のことを話そうとして泣き。
感情移入しすぎて泣き。
大声を聞いただけで泣く。
(怒鳴られたのは自分じゃないのに)
親も手に負えなかったのだろう。
涙の理由すら聞かれなくなった。
聞かれても説明できなかったけど。
すぐに泣く自分が大嫌いだった。
精神科医が私に言った。
「なんでそんなに自信がないのかな」
精神科医が親に言った。
「なんで自分の子供を守ろうとしないの?」
そうか、私は守られていなかったんだ。
また泣いた。
親から離れた。
家族と距離を置いた。
大切な人に出会えた。
前より、ずっと泣かなくなった。
でも、やっぱりまだ泣き虫。
仕方ない。そういう生き物なのだ私は。