―声が枯れるまで―
いつかこの声が枯れるまで、
白い部屋でずっと眠る貴方を
呼び起こす声は止めない。
いつかこの命が尽きるまで、
決して目を覚まさない貴方を
待ち続ける事は辞めない。
そして今日も私は白い部屋に居た。
涙を浮かべる勢いで貴方の名前を呼び、
祈るように手を合わせ、貴方の目覚めを乞い願う。
―すれ違い―
『…バカ!もう知らない!!』
「どっちがバカだよ。勝手にすれば?」
私は1人、部屋にこもり泣いた。
さっきの会話を思い出してベッドに突っ伏して泣いた。
怒りに任せて、いけないことを
口走った自分に泣いた。
たぶんもう、彼と一緒に生きていけないことに泣いた。
そして泣いて初めて気づいた。
泣いて泣いて、苦しくなった時に、
優しくかけてくれる彼の声が
どれだけありがたかったか。
貴方が居ないだけでこんなにも不安になることも。
でも、私は知っている。
1度すれ違ってしまえば、
もう元の関係は遠いものなんだと。
願えど祈れど泣き崩れど、決して叶わないものなんだと―。
そんなことない。
今まで助け合って生かし合ってここまで来たのなら、
それは、正反対の方向に進む2人じゃない。
隣合って同じ道を共に進む2人だ。
だからきっと『すれ違った』んじゃなくて、
『足並みが乱れた』んだ。
だからきっと大丈夫。
もう1度2人でちゃんと向き合って、
もう1度2人でちゃんと理解し合って、
もう1度2人で息を合わせて、
そうすれば、きっと、願うとおりになる。
戦友同士なる愛人達に幸あれ。
―秋晴れ―
雲ひとつない秋晴れの空
いつか私の心の中も
秋晴れのように晴れ渡れ
―忘れたくても忘れられない―
忘れたくても忘れられない。
あの時聞こえた急ブレーキの音と、
その直後に聞こえたとてつもなく大きな音、
そして肉が焼け焦げるような異臭と、
元は人間だったと思われるグロテスクな物体2つ、
幸せな日々を幸せだった日々に変えた絶望。
飢えに苦しみ地を這うような生活や、
味方なんて誰もいないという孤独感。
新しい家に迎え入れられた時の安心感と、
その後の暮らしへの期待。
ようやく自分も愛されるようになった喜びと、
初めて自分を必要としてくれた人のこと。
初めて感じたときめきと、
私に特別な愛を伝えてくれた人。
そんな中、突如訪れた私の幸福を壊す人達、
その人達が私に嫉妬し、私を恨んできたこと。
久しぶりに感じた絶望と、
蓄積しては無くならない、悲しみ、苦しみ、痛み。
全て諦めようと決意した時のこと、
あの時確かに狂ってた自分、
知らないビルの屋上から見下ろす都会の目紛るしさ、
決意したくせに足の震えた自分の弱さ、
それに対するイラつき。
全部、全部、今も鮮明に覚えてる。
忘れたくても忘れられない。
忘れようにも忘れられない。
忘れたくても忘れちゃいけない。
忘れたくても忘れない。
だって、みんなみーんな、
私が私として私の人生を生きてきた証なんだから。
―やわらかな光―
鉄格子のはまった窓に、
やわらかな光が差し込む。
私以外に人の居ない、真四角で狭い部屋が、
電気が設備されておらず、
基本ずっと暗いままの部屋が、
少し明るくなる。
あぁ、やっとまた朝を迎えることができた。
腕で抱え込んでいた膝から顔を上げ、
手で庇を作って窓を見上げる。
今日も、心地よさそうな朝だ。
こんなにも変化のない場所にずっと居ると、
そこまで大したことのないことにも、
目を向けられるようになる。
自分は他人に生かされてるんだな、なんて。
最近気づいたことだけど、
ここ最近は毎日毎日思ってる。
他愛のないことも含め全てのものが
とてつもなく愛おしくなる生活。