雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

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9/10/2022, 10:43:29 AM

―喪失感―

ほんとになんなんだろう、さっきから感じるこの感じ。
心臓が、小さな手にぎゅっと握られたように痛くて、
胸に穴が開いてしまったような、そんな―。
さっきから、特に何も変わったことは無い筈なのに。
さっきまでは感じていなかったこの虚しさは、
一体どこから来たのだろう。いつ、去ってくれるのだろう。
大きくて深い虚ろな器のような、そんな物足りない感じ。
頑張って手を伸ばしてるのに、その手は風しか切れない…
みたいな感覚―。
嗚呼。

そんな感情に襲われて、その感情を初めて覚えたあの夜から、
胸は痛いままだったし、
物足りない感じも、
空を切ったような感覚も、
全部何も変わらないまんまだった。
喪失感という名の悪魔は、あれ以来私の心に住み着いて、
絶対に、一時も離れようとはしなかった。
しかもその悪魔は、ただ執拗いだけでなく、
粘っこくって、毒気があって、真っっ黒だった。
――時は過ぎていった。
胸に穴が開いたような。
でも、その穴に丁度ピッタリと入ってくれて、
私をしっくりこさせるようなものは、何も見つからなかった。

私の心は囚われた。
喪失感に見舞われ見舞われ、悩まされ――
そして、ある時ようやく気づいた。
私に足りないものがわかった。
なんで今まで気づかなかった?
…いや、ほんとは喪失感に気づくと同時に、
気づいてたんだと思う。
だから多分あれは、不可解のフリをした現実逃避。
あの夜私の胸にぽっかりと開く穴から抜けてしまったのは、
多分、いや、紛れもなく――

――貴方。

でも、気づいたところで、だ。
私は、今から居候である悪魔を追い払うための、
武器を見つけに行かなきゃいけない。
悪魔を追い払って、胸に開きっぱなしの穴に
ちゃんと馴染んで、穴を防いでくれる武器
――すなわち、貴方の代わり――
なんて、世界のどこにも居るはずないのに。

9/9/2022, 11:18:08 AM

―世界に一つだけ―

世界に一つだけ 私の命
この世にひとつしか存在しないものの価値なんて、
想像できる範囲のレベルじゃない
この世にひとつしか存在しないものをもってるなんて、
それだけでとても凄くて、素晴らしいこと

世界に一つだけ 私の人生
この世にひとつしか存在しないものなんだから、
誰も偽作できないくらい、自分流に仕上げちゃえばいい
この世にひとつしか存在しないものをこれから作っていけるんだから、
誇りに思わなきゃ―そして、どうせなら楽しまなくっちゃ

―世界に一つだけのもの
ただもってるってだけで十二分に素晴らしい
活かせなくたって、ボロボロに傷ついたって、
存在自体に意味がある
形がないものの価値は、簡単には分かりにくい
だから大事にされないことも多い
でも、形あるものはいつかは壊れるから
簡単に取り返せない程の時間をかけて作り上げて来たもの、
一瞬にして壊しちゃうなんて、そんなの勿体なさすぎる
少なくとも私はそう思ってるし、
これからもずっとそう思ってたいと思ってる
だから今こうして顔を上げて、堂々と息をしている

9/8/2022, 2:15:09 PM

―胸の鼓動―

最近、身体がおかしくなった
急に動悸がすることが屡々ある
身体中が震えて、息が切れて、
この前は過呼吸も起こした
流石におかしいなと思って
ずっと、考えていた
そんなとき、私に助言をくれた人がいた
名前は覚えてない
けど、妖しげなお婆さんだった気がする
ともかく、その人は
こう言った
「そういう時はね、
首をぐーっと抑えておくといいんだよ
苦しくなって、
耐えられなくなるくらいまでね
そしたら、胸の鼓動も止まるから
お嬢ちゃんは強いだからね
短く済むと思うよ」
「可哀想に
早く終わればいいねぇ」
私は感心した
嗚呼
なぁんだ、そんなことか
すごく簡単なことだ
私は思わず笑みを零した
嬉しくなって、早速言う通りにしてみた
最初の方は、何も感じなかった
ただ息苦しかった
すると
『なに…こ、れ…ッ!』
徐々に喉が熱くなっていった
咳が止まらない
咳をすればするほど苦しくなる
視界の隅に涙が溜まる
聞こえる音が遠くなっていき
視界も酷く霞んでいった
やがて私は倒れた
意識が終わってしまう頃、
私の耳に残った声が響いた
―«短く済むと思うよ»―
―«早く終わればいいねぇ»―
段々と降りていく瞼の裏側に
どこかで見たお婆さんがいたような…

9/7/2022, 12:49:56 PM

―踊るように―

懐かしい物を見つけた。
薄桃色のペンキの塗装が
少し剥げてしまっている、木製の竹とんぼ。
幼馴染である望結(みゆ)からもらった大切な物。
眺めていると望結と竹とんぼで遊んだ思い出が蘇り、
飛ばしたくってしょうがなくなった。
公園に行って、飛ばしてみた。
両手で挟み、右手を前方、やや下向きに突き出す。
望結が教えてくれた、1番上手く飛ばせる方法。
ヘリコプターの羽を思わせる羽は、
風を切りながら回り、手から離れると、
自分で回転しながらふわりと浮き、
そのまま木の高さまで一直線に飛んだ。
正直、そこまで飛ぶとは思っていなかった。
思わず『おぉ』と声が漏れた。
が、急に吹いてきた強めの風に煽られて、
竹とんぼはバランスを崩した。
不安定に揺られ、回転も緩まった。
あっちへこっちへとゆらゆら揺れながら、
ゆっくりゆっくり落ちていく。
まるで踊るように――。
その姿が、アイドルを目指して
毎日のようにダンスの練習をする
望結の姿と重なった。
スランプに見舞われても、
諦めずに夕暮れの公園で練習をし続ける望結の姿。
と同時に、望結との思い出の続きが
頭の中で再生された。
思いがけず、頬に涙が伝う。
そのまま、誰にも遠慮することなく、暫く泣いた。
だって、望結はあんなに練習したのに、
アイドルになれなかった。
ずっと応援してたし、
あれからもずっと応援するつもりだったのに。

この望結からもらった竹とんぼは、
世間でこう呼ばれることがあるらしい―

―形見。

9/6/2022, 12:25:21 PM

―時を告げる―

ふと、時計が視界の隅に映った。
11時48分…か。
『もう、こんな時間なんだね。』
目の前で僕と踊る少女に向けて、呟くように言った。
「え?」
光の加減でキラキラと輝く水色のドレスに身を包んだ
なんとも可憐な姿に似合わず、
素っ頓狂な声をあげる彼女がたまらなく可愛らしくて、
思わず笑ってしまいそうになる。
そんな僕を気にもとめずに彼女は時計を見た。
そして、とても分かりやすく驚いた。
「!?
…もう帰らなきゃ…!!
…今日はとても楽しかったわ。
一緒に踊ってくださってありがとう。さようなら…!」
そそくさと別れを告げる彼女に、今度は僕が驚く。
彼女はスカートの先を摘んで、上品にお辞儀すると、
即座に踵を返す。
その姿に、胸が締め付けられる。
まだ彼女と居たい。離れたくない。そんな衝動に駆られる。
今彼女を止めなければ、一生後悔してしまうような、
そんなことを直感的に感じた。
もう一生彼女に会えないなんて、そんなこと…!!
『待ってくれ!!』
叫んだ。
周りの目なんて全く気にせず、口が勝手に開いた。
彼女が振り返ることは無かったが、
裾の長いドレスとヒールのある靴はやはり走りにくいのか、
僕が数歩走るとすぐに追いつくことが出来た。
僕は、衝動的に彼女の手首をグッと掴んだ。
そして彼女の反応なんて気にせず、そのまま僕は口を開く。
『僕は…僕はまだ、君と居たいんだ。
少なくとも、明日の朝は、君と2人で迎えたい。
君さえ良ければ…僕と一緒に居てくれないか?』
突然の告白。なんなんだこれは。自分でも笑えてしまう。
こんなことをされたら、誰だって困惑でしかないだろう。
でも、僕自身は、至って真剣だった。
「…あの、気持ちはありがたいの。
それに私も、まだ貴方と居たいわ。
でも…鐘が鳴って魔法が解けてしまったら!…あ。」
しまった、とでも言うように彼女は口を手で覆った。
『魔法?』
「…………私、魔法使いに魔法をかけてもらって、
今この姿でいるの。今日ここに来られたのも、
そのおかげよ。でも、12時の鐘が鳴ったら、
魔法は解けてしまう…そしたら、そしたら私は…!!」
暫くの沈黙の後、彼女は思い切ったようにそう言った。
その彼女追い詰められたような声からは、
どこか怯えているような、
不安に打ちひしがれているような、そんな感じがした。
根拠なんてない。ただの直感だ。
だから――
『大丈夫だよ。』
そう、優しく優しく言って、彼女の言葉を遮った。
魔法が解けるとどうなるのか、聞くべきだったはずなのに、
僕は遮った。
しかも、何がどう大丈夫なのか、どういう理由があって
大丈夫と言えたのか、全く分からなかった。
けど、今は彼女をただ肯定してあげたかった。
僕は勢いに任せて彼女を優しく抱きしめた。
全く緊張しなかったと言えば、嘘になってしまうな。
「…!!」
そのまま、僕は彼女の耳元で囁くように言った。
『大丈夫。怖がらなくていい。何も怯えることは無いよ。
もし魔法が解けてしまったとしても…

―僕は、ありのままの君を愛すから―。』

目を見開いて、ただ驚きの表情を浮かべていた彼女の顔に、
キラリと一筋の光が伝う。
抱きしめていた彼女の体を1度離し、しっかりと顔を見た。
彼女の瞳は濡れていた。
僕は彼女の目に溜まった涙を、そっと指で拭った。
そして安心させるようにふわりと笑う。
『約束するよ。だから大丈夫。』
彼女の顔にはもう、驚きの色はなかった。
代わりに戸惑うような表情を浮かべていた。
そんなに、普段誰かに愛されることに
慣れていなかったのだろうか。
自分を好いてくれる人なんてきっと居ないだなんて、
思っていたんだろうか。
そんな思考を一旦振り切り、
可愛くて、優しいのに、愛され慣れていないお姫様を、
まっすぐと見つめ直す。
なら、僕が最初に愛してあげたい。
そして、この人の笑顔を、ずっと守っていたい。
『君のことが好きだ。
ずっと、一緒に居てくれ――シンデレラ。』
「…ええ。私も、貴方のことが、好きよ。
ずっと、一緒に居たい…。」
そう言いながらシンデレラは、とても幸せそうに微笑んだ。
この優しさに溢れた笑顔が、僕は好きなんだ。
ゴーン…ゴーン…
今、12時の鐘が鳴った。
舞踏会会場の真ん中で口付けをする2人に、
鐘が時を告げる。2人を気遣って、遠慮しているかのように。
やがて
シンデレラのドレスがボロボロのエプロンに変わっても、
ガラスの靴が消えて、裸足になっても、
2人の意思が変わることはなかった。
そして2人で微笑みながら、朝を迎えましたとさ。
めでたしめでたし。

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