雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

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―踊るように―

懐かしい物を見つけた。
薄桃色のペンキの塗装が
少し剥げてしまっている、木製の竹とんぼ。
幼馴染である望結(みゆ)からもらった大切な物。
眺めていると望結と竹とんぼで遊んだ思い出が蘇り、
飛ばしたくってしょうがなくなった。
公園に行って、飛ばしてみた。
両手で挟み、右手を前方、やや下向きに突き出す。
望結が教えてくれた、1番上手く飛ばせる方法。
ヘリコプターの羽を思わせる羽は、
風を切りながら回り、手から離れると、
自分で回転しながらふわりと浮き、
そのまま木の高さまで一直線に飛んだ。
正直、そこまで飛ぶとは思っていなかった。
思わず『おぉ』と声が漏れた。
が、急に吹いてきた強めの風に煽られて、
竹とんぼはバランスを崩した。
不安定に揺られ、回転も緩まった。
あっちへこっちへとゆらゆら揺れながら、
ゆっくりゆっくり落ちていく。
まるで踊るように――。
その姿が、アイドルを目指して
毎日のようにダンスの練習をする
望結の姿と重なった。
スランプに見舞われても、
諦めずに夕暮れの公園で練習をし続ける望結の姿。
と同時に、望結との思い出の続きが
頭の中で再生された。
思いがけず、頬に涙が伝う。
そのまま、誰にも遠慮することなく、暫く泣いた。
だって、望結はあんなに練習したのに、
アイドルになれなかった。
ずっと応援してたし、
あれからもずっと応援するつもりだったのに。

この望結からもらった竹とんぼは、
世間でこう呼ばれることがあるらしい―

―形見。

9/7/2022, 12:49:56 PM