―喪失感―
ほんとになんなんだろう、さっきから感じるこの感じ。
心臓が、小さな手にぎゅっと握られたように痛くて、
胸に穴が開いてしまったような、そんな―。
さっきから、特に何も変わったことは無い筈なのに。
さっきまでは感じていなかったこの虚しさは、
一体どこから来たのだろう。いつ、去ってくれるのだろう。
大きくて深い虚ろな器のような、そんな物足りない感じ。
頑張って手を伸ばしてるのに、その手は風しか切れない…
みたいな感覚―。
嗚呼。
そんな感情に襲われて、その感情を初めて覚えたあの夜から、
胸は痛いままだったし、
物足りない感じも、
空を切ったような感覚も、
全部何も変わらないまんまだった。
喪失感という名の悪魔は、あれ以来私の心に住み着いて、
絶対に、一時も離れようとはしなかった。
しかもその悪魔は、ただ執拗いだけでなく、
粘っこくって、毒気があって、真っっ黒だった。
――時は過ぎていった。
胸に穴が開いたような。
でも、その穴に丁度ピッタリと入ってくれて、
私をしっくりこさせるようなものは、何も見つからなかった。
私の心は囚われた。
喪失感に見舞われ見舞われ、悩まされ――
そして、ある時ようやく気づいた。
私に足りないものがわかった。
なんで今まで気づかなかった?
…いや、ほんとは喪失感に気づくと同時に、
気づいてたんだと思う。
だから多分あれは、不可解のフリをした現実逃避。
あの夜私の胸にぽっかりと開く穴から抜けてしまったのは、
多分、いや、紛れもなく――
――貴方。
でも、気づいたところで、だ。
私は、今から居候である悪魔を追い払うための、
武器を見つけに行かなきゃいけない。
悪魔を追い払って、胸に開きっぱなしの穴に
ちゃんと馴染んで、穴を防いでくれる武器
――すなわち、貴方の代わり――
なんて、世界のどこにも居るはずないのに。
9/10/2022, 10:43:29 AM