𝓼𝓾𝔃𝓾𝓴𝓪𝔃𝓮

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11/22/2024, 10:05:57 AM

夫婦


親子とか家族みたいな、ある種言葉では説明の付かない、縁と呼ばれるようなもので結ばれた関係が昔から苦手だった。

だって、それは血が繋がっているという理由だけで生活を共にしてはいるが、私が好んで選んだ人たちではないのだから。

気が合わなくたって当然だし、半ば仕方がないと諦めてもいた。


一方、夫婦はどうだろう?

これは、紛れもなく私自身が好んで選んだ関係性の人だ。

なのにあろうことか、血縁の相手よりもさらにタチが悪いではないか。

それに、自分が産んだはずの子どもたちだってそうだ。

私には子どもが三人いるのだが、三人が三人、誰一人、私の思うようには育たなかった。

似て欲しいところは似ず、似て欲しくないところばかりが継承された。

でも、きっと子どもとはそういうものなのだろう。

思うままそのまま、それぞれが自分たちの道を進んで行くのがあるべき姿なのだと。

かつての自分がそうであったように。


さて、残ったのは夫だ。

彼のことは、分かっているようで分からない。

知っているようで何一つ知らない。

分かったような、知ったような気になっていた時期もあるにはあったが、今は何周か回ったのち、何度目かの分からないというフェーズに突入している。

夫とはきっと、そんなよく知らない、分からない存在の人のことを言うのだろう、と最近は思うようになった。




お題
夫婦

11/20/2024, 2:41:03 PM

宝物


どこかへ連れて行ってくれた記憶も小遣いをくれた記憶も一度としてない父。

そんな父が唯一私にくれたものがある。

無垢の木で作られた宝石箱型のオルゴールだ。

子どもの両手でようやく持てる重さのそれは、大人になった私からしてみても、そこそこ大きく立派な代物だ。

裏を見ると、消えかけた金文字でおたんじょうびおめでとう○○(私の名)と、生年月日が書かれてある。

これは物心つく前からすでに私の手元にあり、子ども心に大切にしなければならないものだと分かっていた。

時々、そっと裏のネジを巻いては、蓋を開け、七つの子を響かせてみるものの、それはいつ聴いても物悲しいメロディーだった。

金額的なことだけで言えば、大人になった私はこのオルゴールよりも高価なジュエリーやバッグをいくつも持っている。

けれど、宝物は?と問われると私にとっては父がくれたオルゴールがそれにあたる。

そんな父も、昨年ついに鬼籍に入った。

オルゴールは正真正銘、私の宝物になった。



お題
宝物

11/17/2024, 1:20:14 PM

冬になったら


冬になったらしたいことを一生懸命考えてみている。

ウインタースポーツは壊滅的にセンスがないことはすでに自覚済みだ。

若い頃、友人に誘われて行った初めてのスノーボードで後ろからスキーヤーに激突され、スノーモービルでふもとまで運ばれて以来のトラウマだ。

あのときは右左どっちか忘れたが、膝の裏に恐ろしい顔型をしたでっかいアザが出来たんだっけ。

あれはたぶん、冬や雪や、強引に私を誘った友人や下手くそなスキーヤーに対する私の恨みや憎しみが化身となって膝の裏に現れたものだと、半ば本気で信じている。

それ以前にスポーツ全般が笑っちゃうくらい苦手なのだが。

あと当たり前だが冬は寒い。

すでにもうここからしてつらい。

夏でもクーラーと同時に電気毛布に包まれて寝ている私としては(誰も信じないが本当だ)、冬の寒さは本当に堪える。

肋間を始め、坐骨にも神経痛が出る。

あのピリピリチクチク、四六時中針で刺されているような感覚は控えめに言って神経を病む。

後頭神経痛に至ってはもう出たら最後、死ぬほどつらい。

それと年の瀬から春先、桜の頼りが届く頃まではだいたい扁桃腺が腫れている。

お陰で抗生物質と痛み止めをこれでもかと飲む羽目になる。

あと冬はおしゃれのしがいがないのもつまらない。

外出中はコートですべてが隠れてしまい、その日のコーディネートがちっともお披露目できないではないか。

だから私はどんなに寒くてもコートの前だけは閉じないようにしている。

もうこうなったら自分との我慢比べだ。

だから体が冷え、免疫力が下がり、神経痛と扁桃腺炎を発症する。

もう完全なる負のスパイラルだ。

それでも冬はおいしいものがたくさんあるし、多少太っても人に気付かれる心配がないのがいい。

毎年恒例、お正月明けから始めるダイエットまでのモラトリアム期間はたらふくご馳走を食べ、思う存分幸せに浸ろうと思う。

冬最高だ!!




お題
冬になったら

11/14/2024, 10:42:15 AM

秋風


今年の秋もほんの一瞬だった。

体感では正味三週間あったかなかったかくらいではないか。

このときにしか着るチャンスがない薄手のレザーブルゾンを着ることを毎年楽しみにしていたはずなのに、今年はうっかり失念してしまっていた。

気付けば秋風どころかすっかり寒風が吹きすさんでいる。

もう四季折々、季節の移り変わりを楽しむ風情はこの国では味わえなくなってしまったのかもしれないな。



お題
秋風

11/7/2024, 1:20:10 PM

あなたとわたし


出会った瞬間、稲妻に撃たれたように人を好きになったことが人生で二度ほどある。

一度目は十七歳のとき。

そいつは二歳年上のどうしょもないレベルの浮気男だった。

常に職を転々としていて、どの仕事もせいぜい続いて三ヶ月。

休みの日は朝からパチンコ屋に並ぶような立派な下衆男だった。

付かず離れずの友人関係ののち、試しに数ヶ月付き合ってみたものの、次から次へと女の影がちらついて、早々にわたしの方がギブアップした。


二度目の稲妻は二十一歳のときだ。

その彼はわたしと同い年で、この人もなかなかの風来坊だった。

役者を目指して小さな劇団に所属し、ときどきは小さな舞台にも立っていたが、もちろんそれだけでは食べていけず、ピザ屋の配達と日雇いのバイトを掛け持ちしていた。

五歳の女の子がいるシンママに心底惚れ込んでいて、わたしなんてまったく眼中に無いどころか、視界の隅にも入れてもらえなかった。

そのままではあまりにも悔しいのと、友人にそそのかされたのもあり、ある日わたしはその彼を誘惑することにした。

前段は省くが、まぁいろいろあって、とある夜、わたしはまんまと彼と一緒のベッドに潜入することに成功した。

背中には彼のぬくもりを感じていて、わたしに回された手がこれから起こることを如実に予感させた。

でも結局は何も起こらなかった。

なぜなら、その直後、ことが起こる前にわたしがベッドから抜け出したからだ。

それ以来、稲妻には撃たれていない。

それ以降は、わたしのことを好きになってくれた人、数人と付き合ったのち、その中の一人と結婚して家庭を持った。


あなたとわたし

同じ配分で同じだけお互いを好きになる、なんてことがあるのかはわからないけれど、もしそんなことが現実に起こりうるのであれば、それはそれで一つの経験として実際に体験してみたい気もしている。





お題
あなたとわたし

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