宝物
どこかへ連れて行ってくれた記憶も小遣いをくれた記憶も一度としてない父。
そんな父が唯一私にくれたものがある。
無垢の木で作られた宝石箱型のオルゴールだ。
子どもの両手でようやく持てる重さのそれは、大人になった私からしてみても、そこそこ大きく立派な代物だ。
裏を見ると、消えかけた金文字でおたんじょうびおめでとう○○(私の名)と、生年月日が書かれてある。
これは物心つく前からすでに私の手元にあり、子ども心に大切にしなければならないものだと分かっていた。
時々、そっと裏のネジを巻いては、蓋を開け、七つの子を響かせてみるものの、それはいつ聴いても物悲しいメロディーだった。
金額的なことだけで言えば、大人になった私はこのオルゴールよりも高価なジュエリーやバッグをいくつも持っている。
けれど、宝物は?と問われると私にとっては父がくれたオルゴールがそれにあたる。
そんな父も、昨年ついに鬼籍に入った。
オルゴールは正真正銘、私の宝物になった。
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宝物
11/20/2024, 2:41:03 PM