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6/25/2024, 10:50:10 AM

『繊細な花』

 みんなは花と言われて何を思い浮かべる?

 美しい? 綺麗? 可愛い? かっこ良いなんて思う人も居るかもしれない。

 部屋や玄関などに飾って置くだけで雰囲気を一変させ、その花にあった空気を作る。

 だけど、花は脆い。

 茎を人差し指と親指でつまみ、少し力を入れただけで潰れる。折れる。地面に強く投げたら? 勿論散る。

 少しこずかれてただけで揺れ、力を入れられると崩れ、何も出来ずに決壊する。それは治す事も出来るが1人では出来ない。必ず誰かの力が必要だ。

 儚い物だよな。儚く、脆く、繊細だ。それでいて強く、美しい。

 ……ああ、ごめんごめん。後半はちょっと別の事を言っていたかな? 失敬失敬。

 

 

5/31/2024, 1:03:18 PM

『無垢』

『ぱぱ〜! はやくこっちきて〜!』

 幼き日の思い出。美しくて、明るくて、優しい思い出。

 あの頃の私は良かった。純粋で、無垢で、ただの少女だったから。

 だが、それはいつまでも続かない。

 全てに終わりは来る。それがわかったのは、目の前で父が殺された日。

 辛かった。悲しかった。ずっと一緒だと思っていた。

 でも、そんな事も願わせてくれない。叶えてくれない。

 あの日、父を殺された時、目の前の男を殺すと決めた。父の無念を晴らすと。

 そして——

 「お父さん……終わったよ」

 私は今、そいつを踏みつけ、笑っている。赤く染まり、動かなくなった人間という名の抜け殻を。

 あの頃は良かった。笑顔で、純粋で、無垢でいられたから。

5/14/2024, 9:03:54 AM

『失われた時間』

 昨日、俺の恋人の小夜の手術があった。小夜の治らないと言われていた病気が治るかもしれないと言う、大手術。

 治る確率は1割どころか0,5割にも満たないらしい。でも、この手術でしか治る確率が無いらしい。

 心のどこかでは諦めていた。治らないと。無理なんだと。

 でも、今は確信している。絶対に成功すると。

 理由は1つ。俺はある事をしたから。

 公園のベンチに座り絶望していた時、見知らぬ女性が話しかけてきた。そして、こう言ったんだ。

 「このままじゃ彼女さんの手術、失敗しますよ」

 なんで見知らぬ人間が手術を知っているのか、何故失敗すると断言出来るのか。疑問はいっぱいあった。

 でも、1つだけ、方法があるらしい。

 「貴方の寿命を貰います。その代わり、貴方の彼女さんの手術は絶対成功します」

 その提案を受け入れたら、俺は3日しか生きれないらしい。

 でも、受け入れた。そんな事で小夜が助かるなら。

 そして、手術は成功。小夜の病気は治った。あの謎の女性の言う通りだ。

 でも、俺の命はもうすぐ終わる。あの提案を呑んだから。

 もしも、あの提案を呑まず、手術が成功していたら。

 俺と小夜は、まだ一緒にいられたのだろうか?

 ……いや、そんなたらればを言っても意味ないか。
 

 

5/10/2024, 4:34:05 PM

『一年後』

 「もうそろそろ電車の時間か」

 電車の時刻表を確認して、私は呟く。

 今日、私はこの地元を去る。用事が出来たからフランスへ行くのだ。

 「さて、行くか」

 荷物を持ち、適切な手順を踏み、電車に乗ろうとする。その時——

 「小夜さん、行くんですか?」

 今までずっと近くにいた、ずっと聞いてきた声が私の足を止める。

 振り返るとそこには、私の幼馴染の煌驥が居た。

 「ああ、少し用が出来てな。フランスへ行く」

 「いつ……帰ってくるんですか……?」

 悲しさを隠しているような、涙を堪えているような顔で煌驥が聞いてくる。

 「わからない。だが、すぐ戻ってくるさ」

 思わずそう嘘をついてしまい、罪悪感に苛まれる。

 私はそのまま踵を返して電車に乗る。

 「俺、小夜さんの事ずっと待ってます。だから、帰ってきてくださいね」

 私は、何も言えなかった。もう、嘘をつきたくないから。

 だって、私は一年後に死ぬのだから。

5/8/2024, 9:56:32 AM

『明日世界が終わるなら』

 ずっと想ってきた。

 あの優しい所に。ドジで、鈍感だけど、人をよく見ていて、体調が悪かったりしたらすぐ声をかけてくれる所とか。

 でも、この気持ちは言えない。

 あの人にはもう、心に決めた人がいるから。そして、あの人の隣を歩けるのは私じゃ無いから。

 私にもっと勇気があれば。あの時声をかけていれば。

 そんな後悔が出てくるが、もう遅い。全て終わった事なんだ。

 貴方を愛した1人として、貴方の幸せを願わせて。

 その隣は、私じゃ無くても良いから。

 ……もし、明日世界が終わるなら。

 私は、貴方にこの気持ちを伝えたのかな?

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