『繊細な花』
みんなは花と言われて何を思い浮かべる?
美しい? 綺麗? 可愛い? かっこ良いなんて思う人も居るかもしれない。
部屋や玄関などに飾って置くだけで雰囲気を一変させ、その花にあった空気を作る。
だけど、花は脆い。
茎を人差し指と親指でつまみ、少し力を入れただけで潰れる。折れる。地面に強く投げたら? 勿論散る。
少しこずかれてただけで揺れ、力を入れられると崩れ、何も出来ずに決壊する。それは治す事も出来るが1人では出来ない。必ず誰かの力が必要だ。
儚い物だよな。儚く、脆く、繊細だ。それでいて強く、美しい。
……ああ、ごめんごめん。後半はちょっと別の事を言っていたかな? 失敬失敬。
『無垢』
『ぱぱ〜! はやくこっちきて〜!』
幼き日の思い出。美しくて、明るくて、優しい思い出。
あの頃の私は良かった。純粋で、無垢で、ただの少女だったから。
だが、それはいつまでも続かない。
全てに終わりは来る。それがわかったのは、目の前で父が殺された日。
辛かった。悲しかった。ずっと一緒だと思っていた。
でも、そんな事も願わせてくれない。叶えてくれない。
あの日、父を殺された時、目の前の男を殺すと決めた。父の無念を晴らすと。
そして——
「お父さん……終わったよ」
私は今、そいつを踏みつけ、笑っている。赤く染まり、動かなくなった人間という名の抜け殻を。
あの頃は良かった。笑顔で、純粋で、無垢でいられたから。
『失われた時間』
昨日、俺の恋人の小夜の手術があった。小夜の治らないと言われていた病気が治るかもしれないと言う、大手術。
治る確率は1割どころか0,5割にも満たないらしい。でも、この手術でしか治る確率が無いらしい。
心のどこかでは諦めていた。治らないと。無理なんだと。
でも、今は確信している。絶対に成功すると。
理由は1つ。俺はある事をしたから。
公園のベンチに座り絶望していた時、見知らぬ女性が話しかけてきた。そして、こう言ったんだ。
「このままじゃ彼女さんの手術、失敗しますよ」
なんで見知らぬ人間が手術を知っているのか、何故失敗すると断言出来るのか。疑問はいっぱいあった。
でも、1つだけ、方法があるらしい。
「貴方の寿命を貰います。その代わり、貴方の彼女さんの手術は絶対成功します」
その提案を受け入れたら、俺は3日しか生きれないらしい。
でも、受け入れた。そんな事で小夜が助かるなら。
そして、手術は成功。小夜の病気は治った。あの謎の女性の言う通りだ。
でも、俺の命はもうすぐ終わる。あの提案を呑んだから。
もしも、あの提案を呑まず、手術が成功していたら。
俺と小夜は、まだ一緒にいられたのだろうか?
……いや、そんなたらればを言っても意味ないか。
『一年後』
「もうそろそろ電車の時間か」
電車の時刻表を確認して、私は呟く。
今日、私はこの地元を去る。用事が出来たからフランスへ行くのだ。
「さて、行くか」
荷物を持ち、適切な手順を踏み、電車に乗ろうとする。その時——
「小夜さん、行くんですか?」
今までずっと近くにいた、ずっと聞いてきた声が私の足を止める。
振り返るとそこには、私の幼馴染の煌驥が居た。
「ああ、少し用が出来てな。フランスへ行く」
「いつ……帰ってくるんですか……?」
悲しさを隠しているような、涙を堪えているような顔で煌驥が聞いてくる。
「わからない。だが、すぐ戻ってくるさ」
思わずそう嘘をついてしまい、罪悪感に苛まれる。
私はそのまま踵を返して電車に乗る。
「俺、小夜さんの事ずっと待ってます。だから、帰ってきてくださいね」
私は、何も言えなかった。もう、嘘をつきたくないから。
だって、私は一年後に死ぬのだから。
『明日世界が終わるなら』
ずっと想ってきた。
あの優しい所に。ドジで、鈍感だけど、人をよく見ていて、体調が悪かったりしたらすぐ声をかけてくれる所とか。
でも、この気持ちは言えない。
あの人にはもう、心に決めた人がいるから。そして、あの人の隣を歩けるのは私じゃ無いから。
私にもっと勇気があれば。あの時声をかけていれば。
そんな後悔が出てくるが、もう遅い。全て終わった事なんだ。
貴方を愛した1人として、貴方の幸せを願わせて。
その隣は、私じゃ無くても良いから。
……もし、明日世界が終わるなら。
私は、貴方にこの気持ちを伝えたのかな?