『一年後』
「もうそろそろ電車の時間か」
電車の時刻表を確認して、私は呟く。
今日、私はこの地元を去る。用事が出来たからフランスへ行くのだ。
「さて、行くか」
荷物を持ち、適切な手順を踏み、電車に乗ろうとする。その時——
「小夜さん、行くんですか?」
今までずっと近くにいた、ずっと聞いてきた声が私の足を止める。
振り返るとそこには、私の幼馴染の煌驥が居た。
「ああ、少し用が出来てな。フランスへ行く」
「いつ……帰ってくるんですか……?」
悲しさを隠しているような、涙を堪えているような顔で煌驥が聞いてくる。
「わからない。だが、すぐ戻ってくるさ」
思わずそう嘘をついてしまい、罪悪感に苛まれる。
私はそのまま踵を返して電車に乗る。
「俺、小夜さんの事ずっと待ってます。だから、帰ってきてくださいね」
私は、何も言えなかった。もう、嘘をつきたくないから。
だって、私は一年後に死ぬのだから。
5/10/2024, 4:34:05 PM