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5/10/2024, 4:34:05 PM

『一年後』

 「もうそろそろ電車の時間か」

 電車の時刻表を確認して、私は呟く。

 今日、私はこの地元を去る。用事が出来たからフランスへ行くのだ。

 「さて、行くか」

 荷物を持ち、適切な手順を踏み、電車に乗ろうとする。その時——

 「小夜さん、行くんですか?」

 今までずっと近くにいた、ずっと聞いてきた声が私の足を止める。

 振り返るとそこには、私の幼馴染の煌驥が居た。

 「ああ、少し用が出来てな。フランスへ行く」

 「いつ……帰ってくるんですか……?」

 悲しさを隠しているような、涙を堪えているような顔で煌驥が聞いてくる。

 「わからない。だが、すぐ戻ってくるさ」

 思わずそう嘘をついてしまい、罪悪感に苛まれる。

 私はそのまま踵を返して電車に乗る。

 「俺、小夜さんの事ずっと待ってます。だから、帰ってきてくださいね」

 私は、何も言えなかった。もう、嘘をつきたくないから。

 だって、私は一年後に死ぬのだから。

5/8/2024, 9:56:32 AM

『明日世界が終わるなら』

 ずっと想ってきた。

 あの優しい所に。ドジで、鈍感だけど、人をよく見ていて、体調が悪かったりしたらすぐ声をかけてくれる所とか。

 でも、この気持ちは言えない。

 あの人にはもう、心に決めた人がいるから。そして、あの人の隣を歩けるのは私じゃ無いから。

 私にもっと勇気があれば。あの時声をかけていれば。

 そんな後悔が出てくるが、もう遅い。全て終わった事なんだ。

 貴方を愛した1人として、貴方の幸せを願わせて。

 その隣は、私じゃ無くても良いから。

 ……もし、明日世界が終わるなら。

 私は、貴方にこの気持ちを伝えたのかな?

5/5/2024, 11:03:27 AM

『耳を澄ますと』

 「たまには高い所も良い物だな」

 今、俺は昔通って居た中学校の屋上に居た。不法侵入とは言わないでくれ。許して。

 まあ俺は耳が良いから誰か来たとしても気づくけどな。

 ところで。君達、俺に質問したい事があるだろう? ああ、皆まで言うな。何故屋上にいるのか、だろう?

 その答えは簡単。最近ハマっている趣味を楽しむ為だ。

 その趣味と言うのは——

 「今日も聞こえるな」

 この町に居る人達の会話などを聞く事だ。

 おっと、きもいとかやばいやつとか言わないでくれよ? 悲しくなるから。いや、マジで。

 何が楽しいかと言うと、やはり1人1人で違うと言う事だな。

 楽しい話、悲しい話、怒った話。そして話すときの癖、抑揚などなど。人によって様々だ。

 君達も是非やってみてくれ。中々面白いぞ。

 

 

5/4/2024, 6:15:30 AM

『2人だけの秘密』

 俺の住んでいる町の少し標高がある山の頂上の大きな桜の木の下。そこで、俺達は秘密を作る。

 「あと10年くらい経ったらみよう! これは、2人だけの秘密ね!」

 「うん、わかった!」

 幼き日の俺、煌驥と小夜の、2人だけの秘密。

 その少し後に小夜は転校し、離れ離れになった。

 それから会っていない。会えるのかもわからない。今、どこにいるのだろう。何をしているのだろう。

 あの秘密の約束から10年。俺は桜の木の下に1人立っていた。

 隣に、小夜はいない。本当は一緒に見たい。でも——

 「私が遠くにいっても、あの秘密を果たして。一緒には見れないかもしれないけど、貴方に見てほしいの」

 遠くに行く前に、小夜が寂しそうな笑顔で言ったから。

 だから俺は、その約束を果たす。小夜の為に。

 埋めた場所を思い返しながら、地面を掘る。どこに埋めたのか忘れたので時間がかかるかも……。

 結局、見つけたのは50分ほど経った時だった。結構時間がかかってしまったな……。

 出て来たのは小さな箱。小夜が子供の頃に両親に買って貰ったと言う、お気に入りの箱だった。

 箱の蓋に手をかける。そして、そのまま力を込めた時——

 「ちゃんと約束、守ろうとしてくれたんだね」

 「は?」

 聞こえるはずのない声。今は遠くに居るはずの、幼き日によく聞いた懐かしくも優しい声。

 「なんで……」

 振り向くとそこには、あの頃よりも成長し、大人になった小夜が居た。

 「久しぶりだね、煌驥」

 脳の処理が追いつかない。何故ここに居るんだ?

 「小夜……いつ帰って来たんだ……?」

 「う〜ん、実は親に言ってないんだよね。だから親も知らないよ」

 「は? なんで言わなかったんだよ。親御さんが心配するだろ?」

 「だって——」

 小夜はあの頃の面影が残った優しい笑みで、こう言った。

 「2人だけの秘密、だからね」

 

 

 

 

 

5/3/2024, 11:26:35 AM

『優しくしないで』

 校舎の3階、2年1組の教室に、1人の女子高生が泣いていた。

 その女子高生の名前は小夜。そう、私です。

 何故泣いているのか。それは——

 「お〜い、小夜!」

 この男だ。名前は煌驥。私の幼馴染にして私が恋心を抱いている人。

 「どうした、小夜? 帰ろうぜ」
 
 「何を言っているの? 貴方、付き合っている人が居るんでしょう?」

 「それは……なんと言うか……」

 付き合っている人が居るのに何故私を誘うのか。浮気になるじゃない。

 「だから、私には関わらないで。貴方はあの子と幸せになれば良い」

 「おい、ちょっと待てよ小夜!」

 煌驥が私の腕を掴み、私の歩みを止めて来る。

 「何? まだなんか用?」

 「お前、何かあったか?」

 「は? 何も無いけど。それだけ? ならもう行くから」

 「何も無いならなんでお前、泣いてるんだよ」

 「え……?」

 右手で頬に手を当ててみる。すると、指に涙が付いた。意図せず出てしまったのか。我慢出来ていると思っていたのに。

 「貴方には関係ないから気にしないで」

 「気にするだろ。俺はお前の幼馴染なんだから」

 「私に優しくしないでって言ってるの!」

 思わず、声を荒げてしまう。私が諦めようとしているのに、何故この男はそれをわからないのか。

 「貴方にはもうあの子が居るんでしょう?! だから私は諦めようとしているのに! なんで私に話しかけるの! 優しくするの!」

 「それは……」

 煌驥がきまづそうに目を逸らす。煌驥に良くある癖だ。

 「あの子が居るのに私に話しかけるなんて! 貴方はそんな人じゃないでしょう? 貴方は好きになった人を一途に愛する人だった! なのに何故変わったの!」

 「変わってない!」

 煌驥のその真剣な雰囲気に、言葉に、顔に、びっくりした。そう、その顔。その顔をあの子に向けてあげて。それが、今の貴方のやるべき事なんだから」

 「わかった。言おう。あの子の事だからあまり言いたくなかったけど、好きな人に嫌われてまで秘密に出来るほど俺は優しくない」

 「え……?」

 意味がわからない。煌驥が私の事を好き? じゃああの子は? どう言う事?

 「よく聞け。あのな、俺とあいつは付き合ってない。偽装だ。俺が好きなのはあいつじゃない。」

 「俺が好きなのは——!」

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