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『優しくしないで』

 校舎の3階、2年1組の教室に、1人の女子高生が泣いていた。

 その女子高生の名前は小夜。そう、私です。

 何故泣いているのか。それは——

 「お〜い、小夜!」

 この男だ。名前は煌驥。私の幼馴染にして私が恋心を抱いている人。

 「どうした、小夜? 帰ろうぜ」
 
 「何を言っているの? 貴方、付き合っている人が居るんでしょう?」

 「それは……なんと言うか……」

 付き合っている人が居るのに何故私を誘うのか。浮気になるじゃない。

 「だから、私には関わらないで。貴方はあの子と幸せになれば良い」

 「おい、ちょっと待てよ小夜!」

 煌驥が私の腕を掴み、私の歩みを止めて来る。

 「何? まだなんか用?」

 「お前、何かあったか?」

 「は? 何も無いけど。それだけ? ならもう行くから」

 「何も無いならなんでお前、泣いてるんだよ」

 「え……?」

 右手で頬に手を当ててみる。すると、指に涙が付いた。意図せず出てしまったのか。我慢出来ていると思っていたのに。

 「貴方には関係ないから気にしないで」

 「気にするだろ。俺はお前の幼馴染なんだから」

 「私に優しくしないでって言ってるの!」

 思わず、声を荒げてしまう。私が諦めようとしているのに、何故この男はそれをわからないのか。

 「貴方にはもうあの子が居るんでしょう?! だから私は諦めようとしているのに! なんで私に話しかけるの! 優しくするの!」

 「それは……」

 煌驥がきまづそうに目を逸らす。煌驥に良くある癖だ。

 「あの子が居るのに私に話しかけるなんて! 貴方はそんな人じゃないでしょう? 貴方は好きになった人を一途に愛する人だった! なのに何故変わったの!」

 「変わってない!」

 煌驥のその真剣な雰囲気に、言葉に、顔に、びっくりした。そう、その顔。その顔をあの子に向けてあげて。それが、今の貴方のやるべき事なんだから」

 「わかった。言おう。あの子の事だからあまり言いたくなかったけど、好きな人に嫌われてまで秘密に出来るほど俺は優しくない」

 「え……?」

 意味がわからない。煌驥が私の事を好き? じゃああの子は? どう言う事?

 「よく聞け。あのな、俺とあいつは付き合ってない。偽装だ。俺が好きなのはあいつじゃない。」

 「俺が好きなのは——!」

5/3/2024, 11:26:35 AM