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『2人だけの秘密』

 俺の住んでいる町の少し標高がある山の頂上の大きな桜の木の下。そこで、俺達は秘密を作る。

 「あと10年くらい経ったらみよう! これは、2人だけの秘密ね!」

 「うん、わかった!」

 幼き日の俺、煌驥と小夜の、2人だけの秘密。

 その少し後に小夜は転校し、離れ離れになった。

 それから会っていない。会えるのかもわからない。今、どこにいるのだろう。何をしているのだろう。

 あの秘密の約束から10年。俺は桜の木の下に1人立っていた。

 隣に、小夜はいない。本当は一緒に見たい。でも——

 「私が遠くにいっても、あの秘密を果たして。一緒には見れないかもしれないけど、貴方に見てほしいの」

 遠くに行く前に、小夜が寂しそうな笑顔で言ったから。

 だから俺は、その約束を果たす。小夜の為に。

 埋めた場所を思い返しながら、地面を掘る。どこに埋めたのか忘れたので時間がかかるかも……。

 結局、見つけたのは50分ほど経った時だった。結構時間がかかってしまったな……。

 出て来たのは小さな箱。小夜が子供の頃に両親に買って貰ったと言う、お気に入りの箱だった。

 箱の蓋に手をかける。そして、そのまま力を込めた時——

 「ちゃんと約束、守ろうとしてくれたんだね」

 「は?」

 聞こえるはずのない声。今は遠くに居るはずの、幼き日によく聞いた懐かしくも優しい声。

 「なんで……」

 振り向くとそこには、あの頃よりも成長し、大人になった小夜が居た。

 「久しぶりだね、煌驥」

 脳の処理が追いつかない。何故ここに居るんだ?

 「小夜……いつ帰って来たんだ……?」

 「う〜ん、実は親に言ってないんだよね。だから親も知らないよ」

 「は? なんで言わなかったんだよ。親御さんが心配するだろ?」

 「だって——」

 小夜はあの頃の面影が残った優しい笑みで、こう言った。

 「2人だけの秘密、だからね」

 

 

 

 

 

5/4/2024, 6:15:30 AM