『ルール』
俺、煌驥は人間では無い。
俺は所謂『鬼』と呼ばれる存在であり、父が鬼、母が普通の人間だ。
鬼には人間と違う特徴があり、身体能力、再生能力が桁違いに高い。また、前は角などもあったが今は無いらしい。
そして、俺には鬼として生きていく為に両親が決めているルールがある。
1、自分、または自分の大切な物、人が危ない時以外は人間に手を出さない。
2、極力人間として生きる。
俺はこのルールを両親と決めて以来、ずっと守っている。
そのおかげもあり、今は高校生として幸せに暮らせるし、人間の友達も、彼女も出来た。
最初は何故こんな事を、と思った。だが、今は良かったと思う。両親に感謝だな。
ちなみに、母は父が鬼だと言うことも、俺が鬼の特徴を継いでいると言うことも知っている。
「どうしたの? 何か考え事?」
隣で一緒に帰路についていた小夜が俺の顔を覗き込みながら言ってくる。
「いや、なんでも無い。気にしないでくれ」
「そう言われると気になるんだよね〜」
小夜は悪戯な笑みを浮かべて呟き、また前を向く。
小夜は、俺が鬼である事を知らない。
言わない理由は簡単、小夜に嫌われるかもしれないからだ。
言おう、言おうと思っても言えない。言った後、小夜がどう言う反応をするかがわからないから。それが怖い。
「ねえ、煌驥」
「ん? なんだ、どうした?」
「私にはね、私が決めたルールが2つあるの」
急にそんな事を言われ、俺は戸惑う。意味がわからない。何が目的だ?
「怖いぞ、急に。どうした?」
「1つ目。私は、人の事情にはあまり首を突っ込まない。隠したい事があるなら、まあ出来るだけその気持ちを尊重する」
小夜が俺の方に顔を向け、目を合わせてくる。その目には、寂しさと、そして信頼が宿っている様な気がした。
「だからね、私は待つよ。煌驥が言ってくれるのを」
「……!」
心臓がドクン、と跳ねる。まさか、気づかれているのか? それとも勘か?
「私は、煌驥の事が好きだから。そして信じてるから。煌驥がどんな秘密を抱えているかはわからない。でもね、もし煌驥が秘密を言って、私が煌驥と別れるなんて言う事は無いからね」
「……!」
また、心臓が跳ねる。俺も、小夜を信じてる。秘密を言ったとしても、小夜なら受け入れてくれるだろう。そう思っていても——
「怖いんだ、俺は」
「え?」
気がついたら、そんな言葉を吐き出していた。小夜がキョトン、と擬音が似合いそうな顔でみてくる。
そんな小夜に構わず、俺は言葉を続ける。
「だから、待っていてくれ。長くなるかもしれないが、必ず言う。俺が覚悟を決めるまで、待っていてくれないか?」
「勿論」
小夜が即答する。その速さに、今度は俺がキョトンとしてしまう。
「返答が早すぎないか? びっくりしたぞ」
「そりゃ早いよ。だって——」
小夜が、世界一可愛い笑顔で、俺に告げる。
「私の2つ目のルールは、煌驥を信じて、ずっと一緒にいる事だからね!」
『たとえ間違いだったとしても』
「ま、待て! 金ならやる! いくら欲しい?!」
その言葉に耳を貸さず、俺は剣を振るう。
ブシャッ、と鮮血が飛び散り、俺の服などにもつく。
俺には、やるべき事がある。
それは、たとえ自分を犠牲にしようと、確実に成し遂げなければならない事だ。
だから、今日も人を殺す。犯罪だって必要ならやる。それが俺だ。
「だから、待っていてくれ、小夜」
俺は、歩き出す。次のターゲットへと。
この選択が、たとえ間違いだったとしても……俺はやる。
小夜は、俺が唯一『俺』でいられる、大切な人だから。
『雫』
俺が来た街、雪落(ゆきおち)は所謂都会と言われる所だ。そして雪落には洞窟がある。
言ってる事がわからないって? ああ、知ってる。だって俺もだもん。俺もネットで少し聞いただけだもん。だからあると思わなかったんだもん。
俺の職業は写真家。今日はその洞窟の写真を取りに行く予定だ。その為にここにかなり昔から住んでいる人に話を聞いた。
だから本当なんだ。この街に住んでいる人の中でもごく少数しか知って居る人はいないと思う。
何故少数の人しか知らないか、それはその洞窟に行った人達はみんな霧のように消えるからだ。
原因はわからない。なんか花が原因だみたいな事が噂であるが定かでは無い。
てことで今日、と言うか今から俺は洞窟の中に入る。真相を確かめるのだ。
ちなみに、この洞窟にはその少数の人達の中で有名な物がある。それが『sang・Rosse(サン・ロゼ)』と言うとても綺麗な雫らしい。いつもは透明だがたまに別の色が見れるのだとか。
早速洞窟に入る。中は思ったよりも広いみたいだ。人が2人横に並んでも入るくらいの横幅だ。洞窟内は少し湿っており、上からは水滴が落ちてきて居る。
そして、何も無い。たまに雑草とか水溜りがあるくらいだ。噂の花も無いし、やっぱり嘘だったのか?
その後も2歩、3歩と進んでいく。だが、本当に何も無い。ただの洞窟だ。
その時、少し先に光をみつけた。入り口に戻ってはいない。あそこに何かあるのか?
その光を放って居る場所まで進んでみる。すると、見えてきたのは一輪の花。
「まさか本当にあったとは……」
思わず呟いてしまう。あると思っていなかった。
これは写真に収めなければ。きっと金になる。
そしてその白い花の写真を撮る。そしたら、なにかおかしいと思った。
「なんだ、この違和感。この花、何かがおかしい」
「勘がいいな、人間。お前はあまり生かしておけないやつのようだ」
「は?」
その声がした1秒後、目の前の花が開き、鋭い歯が俺の右足を持っていく。
「あ? ああああああああああ!!!」
バランスが崩れ、その場に倒れる。そして右足の方から来る激痛に思わず叫んでしまう。なんだ、何があった?!
上を向いてみると、花が器用に笑っていた。その歯からは俺の血が滴って居る。まさか……?!
「『sang・Rosse(サン・ロゼ)』と言う名前、そしてたまに見れる透明とは違う雫って言うのは……?!」
「まさか人間達に知られて居るとはな。まあ、お前の想像通りだ」
そうか、なら人が帰ってこなかったと言うのもこいつのせいか……。
「証拠隠滅だ。大人しく死んでくれ」
そして、花が茎を伸ばし、口を大きく開き、近づいてくる。
俺が最期に見たのは、赤い雫だった。
『もしも未来が見れるなら』
少し先の未来が見えたなら。
そう思っている人は多いだろう。俺もその1人だ。
もしもその能力を手に入れられたら何に使うだろう? お金を稼ぐ為に株や宝くじを買う? 事故などを回避する? 他にも色々あるだろう。
俺は、多分、恋愛に使うだろう。今、片思いしている小夜さんとの恋愛の未来をみたい。そんなに先の未来は見れないかもだが。
小夜さんは綺麗で、素敵で、可愛くて、素敵で、可愛い(語彙力? 捨ててきたわ)。だからお近づきになりたいのだ。
未来が見れたら色々細工が出来る。廊下で『偶然』会う事だって出来るし、休日でもそうだ。上手くやれば色々出来る。
なんて夢が膨らむ能力なんだ。最高過ぎる。まあ、無いんだけどな、俺にそんな能力。
使えたらこの恋も成就してたのかなぁ。まあまだフラれた訳じゃ無いんだけどさ。望み薄と言うか……。
辛い物だよ、人生というのは。これからも頑張って生きていこう。
『無色の世界』
「おいで、ラル」
次の瞬間、私の隣に5mほどの鷲が空から降りてくる。
「どうした、小夜? 何かあったか?」
「ううん、何も無いよ。ただ少し、寂しかっただけ」
この世界には、何も無い。緑も、海や川も、建物も、何もかも。
生きている者は、私とラルだけ。他に生きている人間も、動物も、見た事がない。
ラルは、私がこの世界で目が覚めた時に、隣で一緒に気絶していた子だ。素性は一切わからない。家で飼っていた鷲がいた。名前は忘れたけど。その子と比べても大き過ぎるとは思うけど……
この世界ではお腹は減らない。睡眠も取らなくて良い世界みたいだ。でも、取れないわけではない。寝ようと思えば寝れるし、食べようと思えば食べられる。食材があれば、だけど。
ラルは、いつも一緒に居てくれる。私が寂しいと言ったら近くに来てくれる。だから、私はラルが好き。
この世界には、色がない。緑も、青も、他の色も。ただ、灰色。それ以上でもそれ以下でもない。あるのは、私とラルの『色』だけ。
目覚めて少し経った後、情報を得る為にかなり歩き回った。でも、何も無いと言うことしかわからなかった。
だから、私はラルとここにいる事にした。ラルは、私の側を離れないと思うから。私の寂しさを埋めてくれると思ったから。
「ねぇ、ラルはずっと私の隣にいる?」
「ああ、勿論だ」
「う〜ん……」
「なんだ、信じられないか?」
ラルが首をコテン、と斜めに傾ける。
「信じてるよ。でも、何か……おかしいの……なんか……わからないけど……」
「……少し寝た方が良い。ほら、私に寄りかかれ」
「うん、ありがとう。少し寝るね」
「ああ、おやすみ」
少し経った後、小さく、可愛い寝息が聞こえてくる。ラルは、小夜の事を見ながら、こう呟いた。
「大丈夫だ、小夜。ここなら一緒に居られる。現実と違って、このお前の理想の世界なら、ずっと」
そう、穏やかな、そして少し寂しげに。