『無色の世界』
「おいで、ラル」
次の瞬間、私の隣に5mほどの鷲が空から降りてくる。
「どうした、小夜? 何かあったか?」
「ううん、何も無いよ。ただ少し、寂しかっただけ」
この世界には、何も無い。緑も、海や川も、建物も、何もかも。
生きている者は、私とラルだけ。他に生きている人間も、動物も、見た事がない。
ラルは、私がこの世界で目が覚めた時に、隣で一緒に気絶していた子だ。素性は一切わからない。家で飼っていた鷲がいた。名前は忘れたけど。その子と比べても大き過ぎるとは思うけど……
この世界ではお腹は減らない。睡眠も取らなくて良い世界みたいだ。でも、取れないわけではない。寝ようと思えば寝れるし、食べようと思えば食べられる。食材があれば、だけど。
ラルは、いつも一緒に居てくれる。私が寂しいと言ったら近くに来てくれる。だから、私はラルが好き。
この世界には、色がない。緑も、青も、他の色も。ただ、灰色。それ以上でもそれ以下でもない。あるのは、私とラルの『色』だけ。
目覚めて少し経った後、情報を得る為にかなり歩き回った。でも、何も無いと言うことしかわからなかった。
だから、私はラルとここにいる事にした。ラルは、私の側を離れないと思うから。私の寂しさを埋めてくれると思ったから。
「ねぇ、ラルはずっと私の隣にいる?」
「ああ、勿論だ」
「う〜ん……」
「なんだ、信じられないか?」
ラルが首をコテン、と斜めに傾ける。
「信じてるよ。でも、何か……おかしいの……なんか……わからないけど……」
「……少し寝た方が良い。ほら、私に寄りかかれ」
「うん、ありがとう。少し寝るね」
「ああ、おやすみ」
少し経った後、小さく、可愛い寝息が聞こえてくる。ラルは、小夜の事を見ながら、こう呟いた。
「大丈夫だ、小夜。ここなら一緒に居られる。現実と違って、このお前の理想の世界なら、ずっと」
そう、穏やかな、そして少し寂しげに。
4/19/2024, 4:19:05 AM