(光の回廊)(二次創作)
あとでかく
(時を結ぶリボン)(二次創作)
女神さまはマザーズ・ヒルの泉に住んでいました。遥か昔から、麓の街に暮らす人間たちを静かに見守ってきました。人間たちに女神さまの姿は見えません。それでも女神さまは人間たちに寄り添い、皆が幸せであるよう心を砕いていました。
そんなある日のことです。
麓の街の荒れ地に、一人の青年が引っ越してきました。その青年は、かつて荒れ地が牧場だった頃に住んでいた男の孫で、再び元の姿を取り戻すために奮闘する新しい牧場主でした。そして彼は、何とも珍しいことに、女神さまの姿を見ることができました。
女神さまはすっかり嬉しくなりました。
この街の人間と会話をするのは彼が初めてでした。彼はとても働き者で、優しくて、誰にでも人気でした。女神さまの住む泉にもよく遊びに来ては、畑で採れた野菜や家畜の副産物を分けてくれました。とりわけ彼の作るイチゴとパイナップルは、女神さまの大好物になりました。
女神さまは、彼の力になりたいと考えました。そして一本のリボンを作り出すと、彼にこう言いました。
「これは時を結ぶリボンというの。これを結んだものは何でも、時間が止まって、劣化や老化をしなくなるのよ」
大切な家畜に結べばずっと元気でいてくれるし、よく実る苗に結べば永遠に収穫ができます。女神さまの贈り物をたいへん喜んだ彼は、リボンを自分自身に結びました。
「これで、ずっと、一緒にいられる」
女神さまはドキッとしました。彼の表情は恋する男のそれで、対象は女神さまのように見えました。なぜなら同じ人間なら、彼自身の時を止めなくてもずっと一緒にいられるんですから。
それからというもの、女神さまは彼のことが気になって仕方ありません。人間たちの言う「恋」とはきっとこのことです。女神さまは一人、浮かれていました。
そうして、彼が来て5年目の春になりました。彼は「いつもありがとう」と言うと、女神さまにとても甘いイチゴをくれました。これから山の湖に向かうそうです。女神さまは「ありがとう、いってらっしゃい」と彼を送り出しました。
(手のひらの贈り物)(二次創作)
いつの間にか日はとっぷりと暮れており、バトルゾーンの賑やかさが風に乗って耳に届いた。カラスバは、ようやく一息ついて、手近なベンチに腰を下ろす。少し離れた場所にはジプソがおり、先ほどまでの自分と同じようにメガ結晶の掃討に勤しんでいる。
「つかれたわー」
ジプソ以外の下っ端たちがいないのをいいことに、本音を零す。するとまるで答えるかのようにセイカが上から降って来た。
「おつかれさまです!」
「なんや、セイカか」
「なんや、とはご挨拶ですね」
スマホロトム片手にふわりと降りて来る様は優雅だが、どこから降りて来たのかは確認を要する。カラスバの記憶が確かならば、この辺は高層アパルトマンに囲まれた囲繞地だ。
さて、朝からメガ結晶の駆除に走り回っていたのはセイカも同じらしい。というのも、異次元ミアレの影響か、急にミアレのそこここに大量のメガ結晶が出現したのだ。サビ組だけでなく、MSBCやジャスティスの会も同じように奔走していた。
「今日はですね、お疲れのカラスバさんにとっておきのプレゼントがあります」
「何や、セイカか?」
「こちらです!」
セイカが手を出したので、その下に手のひらを差し出すと、セイカの手の中から何かがぽすんと落ちてきた。ほかほかしたそれは、小さいけれど、確かな存在感を発している。おまけにMZ団ロゴシールまで貼ってあるではないか。
「カイロです」
何でも、調子乗って街のそこここに波乗りを発動させていたら、何故かピュールに捕まり皆にカイロを配ってくるように言われたのだとか。誰から行こうかと考えた時、真っ先にカラスバの顔を思い出したので駆け付けたらしい。
「下っ端の皆さんに訊いたら、この辺だと教えてくださって」
「へえ。オレが一番ってのは、気分がエエな」
どうせセイカには深い意味はないだろう。だが、無意識のうちにでも選ばれたので気分がいいカラスバである。それ以上の進展は、これからでいいだろう。セイカのもたらしたプレゼントは物理的にも心理的にも温かった。
(心の片隅で)(二次創作)
ブランドンは物心ついた頃から、出会ったものを形にしなければ気が済まないところがあった。幼い頃は、絵を描いたり粘土を捏ねたり工作をしていたりしたが、成長するにつれ、彫刻に興味を持つようになった。芸術とは孤高のものだ。仲間も師も持たぬまま、ブランドンはただ、己の心の赴くままに、創作を重ねてきた。
それはこれからも、変わらないはずだった。
「…………」
ちらちらと、心の片隅で何かがうるさい。無視を決め込んでいたがもう限界だ。ブランドンは手に持っていた彫刻刀と木材を投げ出した。ああ、何と腹立たしいことだろう。
「やっほー、ブランドン、いる?」
更にその原因は、能天気な顔でこうしてアトリエにやってくる。
「……クレア」
「難しい顔してるじゃん、悩み事ならこのクレアちゃんが聞いてあげるよ?」
悩み事こそ、クレアの存在だった。この春にやってきた新米牧場主なのだが、何故かブランドンを気に入っており、三日に二回は会いに来る。お陰様で、常に彼女の存在がブランドンの意識に居座り、手が動かない。ありていに言えば、スランプだった。
「悩みとは、お前のことだ」
「おお?」
「お前がいっつもこうやって――」
くどくどと述べられた陳情を、クレアは素直に傾聴した。そして結論を下してから、彼女の動きはとても速かった。一日で必要な資材を集めきると増築をゴッツに依頼。ザッカ屋に赴きプリザーブドフラワーと青い羽根を買ってブランドンに渡す。やがて家が出来上がり、大きなベッドも届き、あれよあれよという間にブランドンは牧場の家に引っ越すことになった。
「……は?俺は、結婚したのか?お前と?」
「うん!」
クレアは嬉しそうだ。彼女曰く、寝食を共にすれば嫌でも顔を合わせるし、離れた時にわざわざ思い出さなくてもよくなるから、ブランドンの意識からは消えるはずとのこと。1ミリも理解できない解決策だが、結局は彼女の言う通りになったので、ブランドンは考えるのをやめた。
(雪の静寂)(二次創作)
ポドールイは一年を通して雪が降り続く地である。
街の北に古い城があり、そこにはレオニード伯が住んでいる。宵闇のローブを身に纏い、決して老いることのないその人は吸血鬼と呼ばれており、彼が住まうからこそこの地の雪雲が晴れることはないのだとまことしやかに囁かれていた。
ツヴァイク公に頼まれ聖杯を取り戻すため、この街を訪れた一行は、今日のところは宿に泊まることにした。
「…………」
ミカエルは、与えられた部屋から窓の外を見る。
積もった雪がすべての音を吸収したかのように、静まり返っていた。行きかう人の姿はなく、活気も見られない。まるで時が止まり、大きな停滞に呑み込まれたような街だった。
戸がノックされる。入れ、と短く答えると、扉が開きカタリナが入ってきた。
「ミカエル様」
当たり前のように跪くのをやめさせて、手近な椅子を示す。
「失礼します。……休息の許可を、ありがとうございます」
「構わん。今の旅の指揮者はお前だ。私をそこまで気にする必要はない」
カタリナは、はいともいいえとも言わない。ただ静かに控えているだけだ。雪道を進むのは、不慣れなせいか体力を余計に消耗するため、休息をと先に言ったのはカタリナだというのに。
「カタリナ」
窓の外を眺めながら、ミカエルは尋ねる。
「この街の若い女性たちは、レオニード伯に選ばれ永遠の美を得るのを心待ちにしていると聞く。……お前も、いつまでも若くありたいと、思うか」
カタリナの答えは簡潔だった。
「私はミカエル様のおそばで、ロアーヌを守るために戦う使命です」
「そうか」
カタリナは至って真面目だ。その使命はミカエルの傍でなくても叶うのに、と思うと少しだけ可笑しくなってくる。同時に、彼女の言葉を嬉しく感じる自分もいた。
「これからも励め。ロアーヌのために」
「はっ」
貴族の礼を返し、カタリナは部屋を出る。
「いずれは……私のために」
届かなかった言葉は、ただ雪の静寂に吸い込まれていった。