(雪の静寂)(二次創作)
ポドールイは一年を通して雪が降り続く地である。
街の北に古い城があり、そこにはレオニード伯が住んでいる。宵闇のローブを身に纏い、決して老いることのないその人は吸血鬼と呼ばれており、彼が住まうからこそこの地の雪雲が晴れることはないのだとまことしやかに囁かれていた。
ツヴァイク公に頼まれ聖杯を取り戻すため、この街を訪れた一行は、今日のところは宿に泊まることにした。
「…………」
ミカエルは、与えられた部屋から窓の外を見る。
積もった雪がすべての音を吸収したかのように、静まり返っていた。行きかう人の姿はなく、活気も見られない。まるで時が止まり、大きな停滞に呑み込まれたような街だった。
戸がノックされる。入れ、と短く答えると、扉が開きカタリナが入ってきた。
「ミカエル様」
当たり前のように跪くのをやめさせて、手近な椅子を示す。
「失礼します。……休息の許可を、ありがとうございます」
「構わん。今の旅の指揮者はお前だ。私をそこまで気にする必要はない」
カタリナは、はいともいいえとも言わない。ただ静かに控えているだけだ。雪道を進むのは、不慣れなせいか体力を余計に消耗するため、休息をと先に言ったのはカタリナだというのに。
「カタリナ」
窓の外を眺めながら、ミカエルは尋ねる。
「この街の若い女性たちは、レオニード伯に選ばれ永遠の美を得るのを心待ちにしていると聞く。……お前も、いつまでも若くありたいと、思うか」
カタリナの答えは簡潔だった。
「私はミカエル様のおそばで、ロアーヌを守るために戦う使命です」
「そうか」
カタリナは至って真面目だ。その使命はミカエルの傍でなくても叶うのに、と思うと少しだけ可笑しくなってくる。同時に、彼女の言葉を嬉しく感じる自分もいた。
「これからも励め。ロアーヌのために」
「はっ」
貴族の礼を返し、カタリナは部屋を出る。
「いずれは……私のために」
届かなかった言葉は、ただ雪の静寂に吸い込まれていった。
12/17/2025, 12:05:56 PM