美佐野

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(時を結ぶリボン)(二次創作)

 女神さまはマザーズ・ヒルの泉に住んでいました。遥か昔から、麓の街に暮らす人間たちを静かに見守ってきました。人間たちに女神さまの姿は見えません。それでも女神さまは人間たちに寄り添い、皆が幸せであるよう心を砕いていました。
 そんなある日のことです。
 麓の街の荒れ地に、一人の青年が引っ越してきました。その青年は、かつて荒れ地が牧場だった頃に住んでいた男の孫で、再び元の姿を取り戻すために奮闘する新しい牧場主でした。そして彼は、何とも珍しいことに、女神さまの姿を見ることができました。
 女神さまはすっかり嬉しくなりました。
 この街の人間と会話をするのは彼が初めてでした。彼はとても働き者で、優しくて、誰にでも人気でした。女神さまの住む泉にもよく遊びに来ては、畑で採れた野菜や家畜の副産物を分けてくれました。とりわけ彼の作るイチゴとパイナップルは、女神さまの大好物になりました。
 女神さまは、彼の力になりたいと考えました。そして一本のリボンを作り出すと、彼にこう言いました。
「これは時を結ぶリボンというの。これを結んだものは何でも、時間が止まって、劣化や老化をしなくなるのよ」
 大切な家畜に結べばずっと元気でいてくれるし、よく実る苗に結べば永遠に収穫ができます。女神さまの贈り物をたいへん喜んだ彼は、リボンを自分自身に結びました。
「これで、ずっと、一緒にいられる」
 女神さまはドキッとしました。彼の表情は恋する男のそれで、対象は女神さまのように見えました。なぜなら同じ人間なら、彼自身の時を止めなくてもずっと一緒にいられるんですから。
 それからというもの、女神さまは彼のことが気になって仕方ありません。人間たちの言う「恋」とはきっとこのことです。女神さまは一人、浮かれていました。
 そうして、彼が来て5年目の春になりました。彼は「いつもありがとう」と言うと、女神さまにとても甘いイチゴをくれました。これから山の湖に向かうそうです。女神さまは「ありがとう、いってらっしゃい」と彼を送り出しました。

12/20/2025, 11:55:37 AM