(星になる)(二次創作)
元より彼女を欲したのは自分の方で、何があっても手放すつもりはない。それは変わらないのだが。
「このままお前、いつかはミアレの星になるんやないか」
「ほひ?」
口いっぱいにサブレを放り込んだままおうむ返しするセイカに、カラスバは堪らず吹き出した。
セイカはMZ団の切り札にして、街の英雄である。暴走したプリズムタワーを治めた立役者であり、ミアレの高ランカーたちと軒並み深い絆を結んでいる。カラスバもそのうちの一人である。
単なる観光客であった彼女は、何を気に入ったのか、ミアレの街にすっかり居着いている。人助けをしたり、ロワイヤルに参加したりと気ままに暮らす彼女は、当然街の有名人であり、多くの人々に慕われていた。そう、まるでクリスマスツリーのてっぺんに輝く星のように。
「でも呼んだら来るし、呼ばんでも来るし、まあ脈アリか?」
「美味しいお菓子があるなら、どこにでも行きますよ」
にっこり笑うセイカは可愛らしく、ただ口元にサブレの滓が付いていた。
どこにでも、と言うが、彼女は呼ばれたらお菓子が無くても行く。かと思えば新しいポケモンを捕まえては鍛え、ロワイヤルでは敵なしと聞く。したいこともして、頼まれたこともして、毎日あちこち走り回っている彼女は、探そうと思えばすぐに見つけられた。
「なあ、ウチみたいな日陰モンと付き合ってたら、後ろ指指されるんやないの」
「試し行動ですか?カラスバさんにしては珍しい」
「試しやー判ってんなら、欲しい答えくれるんやろな?」
「私はカラスバさんが好きです」
「合格やな」
可愛らしい子にはご褒美を。傍で控えていたジプソに目配せすれば、香り華やかなローズティーが運ばれてくる。前にユカリから押し付けられたものだが、セイカを喜ばせる役には立ったようだ。
セイカの「好き」が、友愛なのか恋情なのかは測りかねるが、呼ばずとも来るという今の関係性を、カラスバはしばらく楽しむつもりだった。
(遠い鐘の音)(二次創作)
昨日までの曇天が嘘のように晴れていた。グレイは一人、木こりの森に来ていた。思い出したかのように感じる風は、遠い鐘の音を運んでは来ない。皆、この晴天にほっとしているだろうなと思う。
「…………」
手近な切り株に腰を下ろして青空を見上げた。
今日は牧場主ピートと養鶏場の娘ポプリの結婚式だ。誰にでもニコニコするピートは当然皆に好かれており、街の住民の殆どは今頃教会だ。グレイだけがこうして、人気のない場所に座り込んでいる。
「よっ、こんなところで油売ってていいのか?」
「……驚いた」
一人のつもりだったが、夏男カイが顔を出す。
「俺を呼びに来たのか?」
「あ?オレがあいつらの結婚式行くと思ってんのか?」
「は?ポプリに失恋したのか?」
ポプリがカイを好きだと公言していたのは昔の話だ。当のカイ側の気持ちは知らないが、両思いには見えなかった。やがてこの街に来たピートに見初められ、今日に至る。
「んー、まあ、ピートは嫌いじゃねぇけどさ」
カイはどっかりとグレイの横の草むらに座った。
「リックの野郎に見つかるとメンドーだし、そもそもオレ招待されてねーし」
この小さい街で結婚式の招待状なんてあってないようなもので、勝手に参加しても咎められない。だがまあ、何となく馴染めていないのだろうカイの居心地の悪さは、判る気がした。
しばし、無言で時が流れる。今頃誓いのキスでも交わしているのだろうか。人々の祝福は温かくも賑やかで、特に牧場主はもみくちゃにされていそうだ。翻ってこちらは男二人、木の枝に囲まれた空を見ている。
「…………」
「…………」
カイの腹の内は窺えない。そもそも知ってどうするのか。至近距離で横顔を見るのも不躾だと考え立ち上がる。
「行くのか?」
「いや、その……」
「まあいいよ。ここにいたのがお前でよかったよ」
グレイは首を傾げたが、カイはひらひらと手を振るだけだ。なんだか変な奴だった。
(夜空を越えて)(二次創作)
ロイドは行商人である。
縁あって、かつては世界規模のバザールが行われていたそよ風タウンに滞在している。初めはここを拠点にあちこちの街に仕入れに出掛けていたが、ここ最近はとある人物の影響で、旅の終わりを迎えこの街への定住を決めた。
その人物――牧場主ハルカが、ロイドの目の前を横切ろうとしていた。
「ひゃっ!」
反射的に、つい、腕を伸ばして捕まえてしまった。ハルカはというと、びっくりしたものの、下手人の顔を見て、ぱっ、と瞳を輝かせた。
「ロイド!ちょうどいいところに!」
「オレを探していたのか?」
時刻はそろそろ宵闇迫る夕刻である。朝や昼間と変わらず走り回る彼女の体力は、さすが牧場主と言ったところか。ハルカは、ロイドの手を取ると、ぐいっと引っ張る。
「ん、オレをどこに連れていくつもりだ」
「イイトコ!」
彼女の行く先は彼女の牧場の、牧草地になっている丘の上だった。あっという間に暗くなった空、こんな時間に異性と二人きりだが彼女は一向に気にする気配もない。ただ、とても嬉しそうに向こう側を指すのだ。
遠く離れた街があり、ふわふわと光るものが無数に浮かび上がってくる。
「なるほど、これは……」
「キレイでしょ?毎年今ぐらいの時期に見られるんだけど、一回ロイドに見せたかったの」
「オレを探してたのは本当だったわけだ」
何かのお祭りなのだろう。見ている間も、その光るものは途切れることなく空に浮かび上がっていく。幻想的で、絵画を見ているかのようだった。亡くなった人を忍び天に灯篭を挙げる祭りが行なわれる街を思い出した。また、同じく亡くなった人を忍び川に灯篭を流す風習のある街もあった。
そういった話をしてもよかったが、ハルカは静かに風景を見つめている。
野暮な気がして、ロイドも説明はやめにした。ちょうどその場に設置してあるベンチに腰を下ろす。彼女が良いと思ったものを分かち合う相手として選ばれたくすぐったさに、ロイドは小さく笑った。
(凍える指先)(二次創作)
濡らした手を乾いた布で拭かず、その場で振ることで水気を切って乾かす。それだけで、凍える指先の出来上がりだ。あとはそれを、ターゲットの首筋目掛けてそっと差し込むだけでいい。セイカは、バトルロワイヤルで培った忍び足を駆使し、そおっとそおっと標的に近寄る。
「いや、何してん」
「ちぇ」
指を入れる寸前で、振り向きもせず企みを看過され、セイカは遺憾の意を表した。
他愛ないこのいたずらを最初に思いついたのはデウロだった。ある冬の朝、雨に濡れてしまった手を拭く暇もなく目的地に急いでいたら、手がとてもとても冷たくなった。自分自身でも驚く程だったが、確かに寒冷地では濡れたタオルを叩けば一瞬で凍るという話もある。それをふと思いついて、セイカに仕掛けたのが数日前だ。
「ま、ちょっとした遊びですよ」
「ほおん?」
本来の予定が無くなって、急に生まれた空白の自由時間で、真っ先に思いついたのが例のいたずらだった。ターゲットは、と考えてカラスバの顔が浮かんだので、善は急げとばかりサビ組事務所に来た。
「思ったよりお子様なんやな」
「そりゃ、カラスバさんに比べたら大体年下でしょ」
「え、オレいくつに見えとるん」
「さあ?」
のらりくらりと問答を繰り返しているうちに、ジプソがお茶とお茶菓子を出してくれた。今日は何と、遠くシンオウ地方から取り寄せた銘菓「森のヨウカン」らしい。話に聞いたことはあるが、食べるのは初めてだ。セイカは目を輝かせる。
「そうだ!みんなも出ておいで」
ポン、と腰に付けたホールから手持ちポケモンを出す。相棒のメガニウムを除けば、最近育てているイーブイの進化系ばかりだ。サンダース、ブースター、シャワーズ、リーフィア、ブラッキー。
「まぁたカラフルなんの揃えたなあ」
「タイプ相性も悪くないんですよ。大体の相手には効果バツグンを取れます」
ミアレの英雄は誇らしげに胸を反らせた。
(雪原の先へ)(二次創作)
両足にしっかりと力を入れて立っていなければ、すぐにでも吹き飛ばされそうなほど強い風が吹いている。ただの暴風ではなく、雪のつぶてが混ざった雪風で、今歩いてきた足跡すらあっという間に埋もれて消えてしまいそうなほどだ。メアリィは雪村で生まれ育った。よって雪も風も見知っているはずだが、プロクスのそれはあまりにも故郷とはかけ離れている。
――エレメンタルのバランスが崩れ、水と風が強くなりすぎている。
(ハモさま……)
こんな状況を見れば、灯台には火をともすべきだという思いがいよいよ強くなる。それが自身の一族の使命に反する行為であっても、なお。
と、辺りが少し暖かくなった。
「想像以上にヤベーな、これ」
「本当ですね……あの二人があんなにも躍起になってたのも、判る気がします」
ジェラルドとイワンだった。イワンが風で空気の層を作り上げ、ジェラルドがその中を炎で少し温めたおかげで、寒さと冷たさが和らいだ。メアリィは、二人ににっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます」
「ったく、一人でマーズ灯台見に行くなんて正気の沙汰じゃねぇって」
ジェラルドはわざとらしく怒っているように言う。
今でこそガルシアやピカードといった連れも増えたけれど、メアリィにとって気の置けない仲間はやはりジェラルドたちだった。今までの世界を巡る旅を思い出す。アンガラ大陸を出て、こんな遠いところまで来るなんて、どうしてあの日想像できただろうか。
「そろそろ戻らないと、ロビンが心配しますよ」
「ガルシアではなくて?」
「そりゃあ今のリーダーはガルシアですけど、ボクたちにとってはロビンがそうなのは変わりません」
マーズ灯台に挑むのは明日の予定だ。皆、今日はプロクス村で旅の疲れを癒している。消息を絶ったカーストたちは心配だが、サテュロスたちの強さを思い出せば、彼女たちだって簡単に負けやしない。それよりも、万端を期すことを優先した。
雪原の先に、旅の終わりが待っている。それは凍てつく吹雪の姿をしていた。