(遠い鐘の音)(二次創作)
昨日までの曇天が嘘のように晴れていた。グレイは一人、木こりの森に来ていた。思い出したかのように感じる風は、遠い鐘の音を運んでは来ない。皆、この晴天にほっとしているだろうなと思う。
「…………」
手近な切り株に腰を下ろして青空を見上げた。
今日は牧場主ピートと養鶏場の娘ポプリの結婚式だ。誰にでもニコニコするピートは当然皆に好かれており、街の住民の殆どは今頃教会だ。グレイだけがこうして、人気のない場所に座り込んでいる。
「よっ、こんなところで油売ってていいのか?」
「……驚いた」
一人のつもりだったが、夏男カイが顔を出す。
「俺を呼びに来たのか?」
「あ?オレがあいつらの結婚式行くと思ってんのか?」
「は?ポプリに失恋したのか?」
ポプリがカイを好きだと公言していたのは昔の話だ。当のカイ側の気持ちは知らないが、両思いには見えなかった。やがてこの街に来たピートに見初められ、今日に至る。
「んー、まあ、ピートは嫌いじゃねぇけどさ」
カイはどっかりとグレイの横の草むらに座った。
「リックの野郎に見つかるとメンドーだし、そもそもオレ招待されてねーし」
この小さい街で結婚式の招待状なんてあってないようなもので、勝手に参加しても咎められない。だがまあ、何となく馴染めていないのだろうカイの居心地の悪さは、判る気がした。
しばし、無言で時が流れる。今頃誓いのキスでも交わしているのだろうか。人々の祝福は温かくも賑やかで、特に牧場主はもみくちゃにされていそうだ。翻ってこちらは男二人、木の枝に囲まれた空を見ている。
「…………」
「…………」
カイの腹の内は窺えない。そもそも知ってどうするのか。至近距離で横顔を見るのも不躾だと考え立ち上がる。
「行くのか?」
「いや、その……」
「まあいいよ。ここにいたのがお前でよかったよ」
グレイは首を傾げたが、カイはひらひらと手を振るだけだ。なんだか変な奴だった。
12/13/2025, 11:56:42 AM