(雪原の先へ)(二次創作)
両足にしっかりと力を入れて立っていなければ、すぐにでも吹き飛ばされそうなほど強い風が吹いている。ただの暴風ではなく、雪のつぶてが混ざった雪風で、今歩いてきた足跡すらあっという間に埋もれて消えてしまいそうなほどだ。メアリィは雪村で生まれ育った。よって雪も風も見知っているはずだが、プロクスのそれはあまりにも故郷とはかけ離れている。
――エレメンタルのバランスが崩れ、水と風が強くなりすぎている。
(ハモさま……)
こんな状況を見れば、灯台には火をともすべきだという思いがいよいよ強くなる。それが自身の一族の使命に反する行為であっても、なお。
と、辺りが少し暖かくなった。
「想像以上にヤベーな、これ」
「本当ですね……あの二人があんなにも躍起になってたのも、判る気がします」
ジェラルドとイワンだった。イワンが風で空気の層を作り上げ、ジェラルドがその中を炎で少し温めたおかげで、寒さと冷たさが和らいだ。メアリィは、二人ににっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます」
「ったく、一人でマーズ灯台見に行くなんて正気の沙汰じゃねぇって」
ジェラルドはわざとらしく怒っているように言う。
今でこそガルシアやピカードといった連れも増えたけれど、メアリィにとって気の置けない仲間はやはりジェラルドたちだった。今までの世界を巡る旅を思い出す。アンガラ大陸を出て、こんな遠いところまで来るなんて、どうしてあの日想像できただろうか。
「そろそろ戻らないと、ロビンが心配しますよ」
「ガルシアではなくて?」
「そりゃあ今のリーダーはガルシアですけど、ボクたちにとってはロビンがそうなのは変わりません」
マーズ灯台に挑むのは明日の予定だ。皆、今日はプロクス村で旅の疲れを癒している。消息を絶ったカーストたちは心配だが、サテュロスたちの強さを思い出せば、彼女たちだって簡単に負けやしない。それよりも、万端を期すことを優先した。
雪原の先に、旅の終わりが待っている。それは凍てつく吹雪の姿をしていた。
12/9/2025, 2:14:36 AM