(好き嫌い)(二次創作)
リーグ本部の廊下を歩いていたグルーシャは、何やら行く手がたいへん賑やかなことに気付いた。ジムリーダーたちが集まり、一般トレーナーの挑戦を受ける立場として、どんな人物なら嬉しいか、反対にどんな人物だと辟易するかをやいのやいの言い合っているようだ。至極くだらない話で、通り過ぎようとし、あえなくグルーシャは捕まった。
「グルーシャやないの。せっかくや、自分も話混ざってな」
グルーシャを捕まえたのはチリ。最近グルーシャを見掛ける度にちょっかいを出してくる、グルーシャからすれば変わり者の人物だ。少しぐらい聞こえないふりをしても通じない彼女に呼ばれ、結局その輪に加わることとなった。
ハッコウジムのナンジャモに、カラフジムのハイダイ、リーグの面接担当チリに、最近チャンピオンになったばかりのハルトと、なかなかな面子である。グルーシャは、四人がわいわい話しているのを静かに聞いていた。実力が足りないのはまだいいけどマナーがなってないとか、こちらの都合も考えずに飛び込んでくるとか、どちらかというと愚痴に偏っているが楽しそうだ。そして部屋に入ってから知ったのだが、片隅にチャンプルジムのアオキが控えている。彼もまた、話に加わるつもりはなさそうだ。
ちょうどいい、自分も壁の花になろうとするグルーシャを、しかし放っておいてくれないのがチリなのだ。アオキは放っているのに、グルーシャ相手だとそうはいかないらしい。
「なあ、自分はなんかおらんの。苦手なタイプとかさ」
「ジムリーダーが好き嫌いしても仕方ないでしょ」
「んな教科書的な答えやのうてさあ」
「そもそもそんなに挑戦者が来ないからね。好きも嫌いもない」
二、三問答を繰り返したところで、今度はハルトが最近頻発する迷惑挑戦者の話をし始めた。何人かはチリのところにも来たようで、お陰様で彼女の注意がグルーシャから離れる。ほっと一息ついて、傍らのアオキを見やれば、目を開けたまま居眠りをしていた。
(やりたいこと)(二次創作)
むらびとも含めたった6人で暮らし始めたこの小さな島も、随分と賑やかになりました。
たぬきちさんに習ったDIYで様々な家具や小物を作りました。博物館を誘致するために、虫や魚をたくさん捕まえました。本当の無人島に遊びに行って、偶然出会ったキャンパーを島暮らしに勧誘しました。しずえさんが加わり、きぬよさん姉妹も店を出し、そして遂にたぬきちさんの夢でもあった「とたけけのライブ」を達成したのです。
しかも、とたけけは、これから毎週土曜日に、ライブを開きに来てくれると言うのです。
しかしむらびとは、困っていました。
「何をすればいい?」
右も左も判らない移住当初から、むらびとはいつも、たぬきちさんの助言を求めていました。住民が10人になったのも、様々な来訪者が顔を見せるようになったのも、すべてはむらびとの功績でした。しかしどれも、たぬきちさんの言葉に従って動いていただけ。
たぬきちさんは、にっこりと答えます。
「なーんも!これからは、むらびとさんがしたいようにすればいいんだも。やりたいことをやって、行きたい場所に行って、飾りたいものを飾って、会いたい人と会って――むらびとさんはもう、自由なんだも」
(やりたいこと……)
それが無いから困っているのです。むらびとは、一人、空を仰ぎました。
たとえば、新しく出来るようになった料理に取り組みましょうか。たとえば、まだ見ぬ大物を求めて釣り糸を垂らしましょうか。夜になると出てきてはこちらを刺していなくなる、にっくりサソリをとっ捕まえてもよいでしょう。しずえさんやレイジが話していた、黒い薔薇から咲くという金の薔薇を追い求めてみましょうか。
どれもこれも、たいへん魅力的です。
魅力的なのですが、何故か、ひとつもしっくりこないのです。
(そもそも、どうしてこの島に来たんだっけ)
移住ですらその場の勢いで決めたむらびとは、降ってわいた自由を持て余していました。
(朝日の温もり)
ぽかぽかと温かい日差しを感じて、ガルシアはゆっくりと目を開いた。
見知らぬ天井が真っ先に視界に入る。身体はベッドの上で、薄い布団の中、だらんと弛緩している。ぐっと腹に力を込めて起き上がれば、何ということはない、そこは宿屋の一室だった。カーテンが開け放たれており、そこから日差しが降り注いでいたようだ。
「……………」
同室の仲間たちの姿はない。荷物はあるから、宿を出たわけではないだろう。寝起きのぼんやりした頭で考えながら、のそりのそりとベッドを出る。階下より、いい匂いが漂ってきて、応じるかのように腹が鳴った。
「おはよう、兄さん」
予想通り、仲間たちは階下で朝ご飯を食べていた。ジャスミンの隣に座ると、シバが大皿に残ったサラダをかき集めてガルシアの方に差し出す。冷えた水で喉を潤し、サラダを咀嚼しているうちに、少しずつ目が覚めて来た。すると頃合いを見計らったかのように、おかみが出来立ての目玉焼きを持ってきた。なるほど、先ほどの旨そうな匂いはこれだったようだ。
「エアーズロックを目指すんでしたよね」
ピカードが、本日の予定を確認する。
「ええ。風のエナジストとして、行かないといけない予感がするの」
シバの言葉に、スクレータが重々しく頷いた。
一行がいるのはミーカサラ村で、ここから北東に進むとポピーチー村がある。その村からさらに進めば、砂漠が広がっており、その中にエアーズロックがあるとのこと。観光地として知られていたが、最近は急に魔物が強くなり、立ち入りが危なくなったとのこと。もちろん、戦士たるガルシアたちには関係のない話だ。
世界には、他の属性のエレメンタルロックもあるらしい。たとえば水のアクアロック、地のガイアロック。そんな話を、ピカードとスクレータが楽し気にしている横で、ガルシアは一人、黙々と朝食を平らげていた。
(世界の終わりに君と)(またあとで)
(二次創作)(最悪)
最悪だ。起きたら8時だった。6時に起きるつもりだったのに。畑に出たら昨日芽が出ていたはずの作物が全滅していた。今日からインディゴの月であることを忘れていた。垂らしていた釣り糸が途切れて勢いのまま川に落ちた。大きな魚が掛かっていたのに。どうにか自力で這い出したところをセピリアに声を掛けられたまではよかった。彼女の厚意に甘え農場にお邪魔したタイミングで社会の窓が全開であることに気付いた。
最悪だ、最悪だ、最悪だ。
僕のドジは今に始まったことではないが、ここまで連続になるのは流石に初めてだ。
「あーはっはっは!アンタ、ホントにドジなんだねええ!」
挙句、ベスタがもう堪えきれないとばかりに大笑いしている。セピリアは乾いたタオルを渡してくれたがちょっと動きがぎこちない。そしてマッシュ、先ほどから僕をしきりに睨んでくる。恥ずかしいやら申し訳ないやら居た堪れないやらで、僕の感情は先ほどからフル回転だ。
「話には聞いてたけど、どうせホラだろうと話半分だったんだよ。でも今日のアンタを見ると、あながち嘘でもなかったね!」
「それはまあ、僕がどんくさいタイプなのは認めるけ……いやちょっと待って、誰から聞いたんですか」
「ロック」
「やっぱり!」
僕は天を仰いだ。ロックというのは宿屋の放蕩息子なのだが、一日中遊び歩いているせいか、僕のやらかしに出くわす頻度も高い。まあ、あいつに助けられた場面もあるから大手を振って否定はしないが……だからと言って言いふらすなよドラ息子。
ベスタが淹れてくれたコーヒーを啜って身体を温める。砂糖とミルクが入っていて、仄かに甘いのが心に優しい気がする。それにしても、どうして今日からインディゴだってのを忘れてたんだろう、僕。季節が変わったら、その季節に合わない作物は枯れるのは牧場主としての常識なのに。
ああ――最悪だ。