「もしも未来が見れるなら、見る?見ない?」
目の前に突然現れたその人は、同じく突然そんなことを聞いてきた。
もしも未来が見れるなら?
正直、とても見たい。
でも同じくらい怖い。
望んだ未来がそこにあったら嬉しい。
でも、反対にとても悲しい未来が広がっていたら辛い。
どちらの可能性もある。
「私は……」
もう一度考える。
どちらの選択肢も私の中にはある。
見たい気持ち、見たくない気持ち。
それでも私が選ぶのは────
「見ない」
そう答えた私を、その人は不思議そうに見つめて首を傾げた。
「本当に見なくていいの?」
「見ない」
「どうして?」
「見たとしても、見なかったとしても、私がこれから頑張ることは変わらないから」
「でも、見てみて、もしその頑張りが報われないって分かったら、もっと違うことに時間を使えるよ?」
「未来って確定?」
「え?」
本当に予想してなかってのか、驚いた顔がそこにあった。
「私は未来は確定じゃないって思う。だから、もし望んだ未来がそこになかったとしても、私はこれからもっと頑張って、望んだ未来を手に入れる!
それなら、見ても見なくても変わらない。
だから見ない!!!」
自分で言って、決意も固まった。
私の未来は、今の私がこれから作る。
「そっか」
風が吹いて目をつぶった一瞬の間に、その人は消えていた。
今思えば、あの頃の私の世界は、色がなかった。
廊下の隅や暗がりに見える「それ」と、周りにいる人々の気配。
みんな私を見てるようで見ていない。
「それ」は私を見ていても、近づいては来ない。
みんな私が不気味だと、怖いのだと言っていた。
何処かで聞こえるひそひそとした話し方は、人か?それとも「それ」なのか。
近くにいても、誰も傍にはいてくれない。
全てがどうでも良くて、全てがあるようで何も無い。
消えてしまいたかった。
無くなってしまいたかった。
そんな私に、あなたは言ってくれた。
「どんな君でも、君だから大切だ」と。
その言葉が、きっと、ずっと、聞きたかった。
頬を濡らす涙と一緒に、
私の世界は、その日、色を付けた。
桜の季節、私が思い出すのは、風にさらわれる花びらと、花びらの嵐の向こうから現れる私を迎えに来た彼の姿。
状況を理解出来ていなかった私を抱き上げて(多分、あの時の彼からしたらただ持ち上げただけだと思う)、呆れたような困ったような顔をしていた。
そしてため息をついて「仕方ねーな」といった彼は、そっと空に飛び立ち、彼の住処へ連れていかれた。
私と彼はそんな春の日に出会った。