ガシャンと音を立てて、それは床に落ちた
手を伸ばしたけれど間に合うわけもなくて
床に散らばるハサミやメジャー、ピンクッションに糸…
あわててピンクッションに刺さった針の数を数える
…良かった、針は散らばらなかったみたいだ
ソーイングケースの中に
落ちたものをひとつひとつ戻していく
ピンクッション、ハサミ、メジャー、白い糸、黒い糸…
「はい、こっちに転がってきてたよ」
目の前に差し出されたのは赤い糸
「あ、ありがと…」
片想い中の彼に手渡された、ただの赤い糸
この瞬間からただの赤い糸は私の宝物へと変わった
これが運命ならいいのに…
***赤い糸***
学校の帰り道、ふと空を見上げた
「…ソフトクリーム食べたい」
「えー?わたあめじゃない?」
「ソフトクリームだよー」
そんなしょうもないことを話しながら
コンビニへ寄り道する
「さすがにわたあめは売ってないか」
「だからアイスにしておきなよー」
その時、ゴロゴロと雷の音が鳴り出した
さっきまでの青空は消えて、黒い雲に覆われた空
ザーッと音を立てて雨粒が勢いよく降り落ちる
「…アイスより傘買おうか」
「そうだね…」
***入道雲***
バシャバシャと弾けるような水の音を聞き流して
プールの横を足早に通り抜けようとした時
ーーぱしゃん
背中に水がかかった
「ちょっ!もう、濡れただろ」
「ごめーん。だって無視して行こうとするから」
水着姿の彼女の、日に焼けた肌が眩しかった
片や俺は一年中真っ白い肌で
彼女の隣に並ぶとオセロのようだ
「今日、部活あるの?」
「うん。大会近いから」
「じゃあ一緒に帰ろ」
「わかった。じゃあとで」
俺はラケットケースを持ち直して
卓球部の部室へと向かった
***夏***
「どこかに行きたいな」
公園のベンチに座り親友とおしゃべりしていた時
ふと口からこぼれ落ちた言葉
「どこ行く?ゲーセン?」
「ごめん、そうじゃなくて」
優しい親友は私の脈絡もない呟きを拾ってくれたけれど
そうじゃないんだ…
「なんか疲れちゃった」
「…うん」
「誰もいないどこかに行って、そのまま消えたい」
「だめだよ。ここにいて」
そう言って親友は私の手を強く握った
***ここではないどこか***
「また明日」
それが君と交わした最後の言葉になるなんて
席替えで隣の席になった時のことを覚えてる
初めて交わした言葉は「おはよう」だったっけ
いつの頃からか君の姿を目で探していた
決死の覚悟で伝えた「好き」の想い
君のはにかむような笑顔
つないだ手の温もりだって覚えてる
それなのに…
どうして今、俺の手は何も感じない?
指先すら動かせない…
目が霞む…
ああ、サイレンの音がうるさい…
***君と最後に会った日***