「ねえ、たこ焼き食べない?」
人の波をスイスイと器用に泳いでいく
さすが都会っ子、人混みの歩き方がうまい
俺は、はぐれないよう彼女の後ろ姿を必死で追った
赤や黄色の原色が並ぶ道路脇
お目当てのたこ焼きを手に入れた彼女は
熱いうちに食べるため、人の少ない路地へと進んでいく
「あれ何かな?」
路地裏の一角
色のない小さな屋台の前に人集りができていた
人の隙間からそっと覗き見ると
色がついた何かを温めては伸ばし温めては伸ばし
くるくると形を作っていく
屋台の横にある看板らしきものには「飴細工」の文字
「飴細工って?」
「飴で動物とか花とかを作るんだよ」
「へぇ。ひとつ欲しいな」
彼女の手には出来上がったばかりの飴細工
それは赤い薔薇を模していた
「綺麗すぎて食べるのもったいないね」
***繊細な花***
「俺と結婚してください!」
ピンク色の紫陽花が咲き乱れる公園で俺は彼女にプロポーズをした
「ごめんなさい。あなたのことは好き。だけど結婚は考えてないの」
「俺じゃダメってこと?」
「そうじゃなくて、人の心って変わるでしょう?私には誰かと永遠を誓う自信がないから」
空が涙をこぼした
俺の心を代弁するかのように…
空の色が変わり季節が巡る
「あれ?ここの紫陽花ってピンクじゃなかったっけ?」
公園の紫陽花が紫色に色付いている
「紫陽花って土壌のpHで色が変わるのよ」
「へぇ知らなかった」
「花の色だって変わるんだもの。人の気持ちだってあっさり変わるわ」
そう言って笑う彼女の指には、去年受け取ってもらえなかった指輪が煌めいていた
***一年後***
毎日が苦痛だった
周りのみんなの様子を真似て
周りに溶け込むように、目立たないようにと過ごす
だけど他と違うことはすぐに気付かれてしまう
みんなが普通にできることができない
誰とでも自然に話すとか
長縄跳びに入っていくとか
100以上の数を数えるとか
右と左の違いとか
教室にいることがただただ苦痛で
ランドセルを置いたまま
上靴のままで学校の外に飛び出した
***子供の頃は***