そろそろ卒業だ。
「受験生だから勉強が第一だけど、やり残したことがあったら後悔しないようにな」
担任に朝のHRで言われた。
後悔しないように、ねぇ。
思えばこの場所はたくさんの思い出がある。
入学式で教室までに迷ってたらクラスの子が助けてくれたこと。好きな人に下駄箱で告白されたこと。体育の時間に転んで足を挫いたこと。
とにかく、たくさんだ。
「有紗はなんかやり残したことある?」
入学式で助けてくれた親友にそう聞いてみた。
「やり残したことー?」
んー、と数秒迷った末、彼女ははっきりと答えた。
「強いていうなら思い出不足だな」
「なんで?」
「当たり前だけど、まだ卒業まで30日もある。“しか”じゃない“も”だよ。残りでどれだけの思い出をつくりきれるかって、大事だと思う。まぁ、受験もあるけど」
そうだよなーと言いながら私は思う。
この場所で、この30日間で、3年間私と過ごしてくれたこの校舎に最大の恩返しをしてあげたいと思う。
『この場所で』#実話(※本名ではありません)
この前、いつもテストで満点に近い点数をとってる優等生が60点を切っていた。
私は不思議に思って彼に話しかけてみた。
「珍しいね、いつもは高いのに」
ちらりと視線をこちらに向けて、すぐに視線を解答用紙に戻すと、彼は口を開く。
「努力不足かな」
「どういうこと?」
「ほら、人には限界があるだろ?ていうか、人によって高い低いが違うし。ほら、田中も自分が苦手教科でこれぐらいとってれば喜ぶよな」
「…確かに」
「でも、調子悪い、とかじゃない。今回は勉強サボってた。次はあげるって決めてる」
痛感した。
彼も人間だ。努力しないと落ちるし、努力すれば伸びる。
私達とは違う、天才だ、という偏見を勝手に抱いていた。
誰もがみんな、完璧な人間ではない。
でも、少なくともみんな得意不得意があって、それを理解しながら生きてる、のだと思う。
『誰もがみんな』#実話(※本名ではありません)
「卒業式は絶対来てね」
と、一個上の姉に言われた。
反抗期真っ只中の私は何度か断ったが、結局行くことになってしまった。
なんか、あげた方がいいかな。
迷いながらも、姉の大好きなカーネーションで花束を作ってもらうことにした。
花の意味なんて興味ないけど、色々面倒くさいことになったら嫌なので、ちゃんと調べることにした。
結論としては、ピンクになった。ありがとうを伝える時に使うらしい。
当日、姉に渡すと、涙ぐみながら「ありがとう」と言ってくれた。
当然だ。私が一生懸命調べて、なけなしのお小遣いを出して買ったし、喜んでくれなきゃ困る。
そのことを友達に話すと、友達は口を揃えていう。
「お前お姉さん好きすぎだろ」と。
やっぱりそうかもしれない。
花束を作ろうと考えた自分に感謝だな。
『花束』
「そんな顔しないでもっと笑えばいいのに」
君はいつもそうやっていう。
「これでも僕は豊かにしてるほうなんだけど」
「嘘、私が何も考えてないときの表情してる」
当たり前だ。そもそも彼女を基準でものは動いてない。
「高橋くんって笑顔の概念知ってる?」
「馬鹿にしないでよ」
これでも、唯一の男の友人には笑顔を見せたことがある。
「逆に君はいつも笑ってるね」
そういうと、彼女はいつもの笑顔でこう答える。
「そっちの方が、人生楽しいじゃん」
単純なことだ。でもやっぱり、彼女からは本当に知らなかったことを学ぶ。
「僕も笑顔、してみようかな」
「えー、高橋くんがスマイルするなんて想像もつかないし、やめたほうがいいんじゃない?」
「…君はいつも余計なことを言うね」
「へへっ」
このスマイル、ずっと僕のものにしていいかな。
『スマイル』#高橋くんシリーズ
どこにも書けないことは、沢山私の心の中にある。
書けないっていうか、言えないというか。
「たーかーはーしーくん!」
寝てる彼に対して、私が目覚まし時計になってあげた。
「何?」
口調でもLINEでも、君は変わらない。無口で短文だ。
もうHRが終わったというのに、いつまで顔を伏せているんだろう。
「もう、早く起きないと私が襲っちゃうよ」
「どういう意味で言ってんの」
相変わらず君は無口だ。でも、素直だ。
「真昼ー!帰るよー」
友達が私を呼ぶ声がした。
「はいはい今行くから!」
どこにも書けないこと、か。
冒頭では沢山あるって示したけど、どっちかと言えば一個の気持ちが膨らんでる感じ。
そうだな、例えばそれは。
高橋くんへの想い、とか。
『どこにも書けないこと』#高橋くんシリーズ