今日の心模様
疲れたーーーー。
一年に十二回ぐらいのペースでゴールデンウィークがあればいいのに。
あ゛ーーーーーーーーー。
雫
波は眼前に、崖は足元に。
浴衣を着た男女が深海に沈む。
珊瑚礁は遥か遠く。
冷たい濁流に身を任せながら、己にかかる重力と浮力を楽しむように。
それが束の間の思い出だとしても、それが生きた証だと刻むように。
沈む。
それが世の流行による愚行だと分かっていようとなかろうと。
屋形船が見た景色は、文楽として大衆に広められる。
何もいらない
出来立てのブラックコーヒーを片手に、頭上からミルクを注いでいるマスターを横目に、パソコンに向かう。
アンティークのレコードをいまだに愛用しているようなこだわりの強い店内には、聞き慣れた、知らない音楽が流れていた。
あくびを一つ。午後の白い日差しは暖かく、ステンドグラスの色を机に映している。
焙煎された豆の香りが心地良い。
「パナマ・ゲイシャ、飲んでみるかい?」
低い声が聞こえた。上を向くと、カウンターからマスターがこちらを見ていた。
「芸者?」
「コーヒー豆の種類ですよ。ゲイシャ自体はもっと他の国でも作られていますが、これはパナマの風土で育った貴重な奴です」
後ろのカウンターから瓶を取り出し、嬉しそうにパッケージを見せてくれる。
「高いでしょう?」
「高いよ」
「でもせっかくだし、んー。それをお願いします」
「……焙煎に時間がかかりますが、よろしいでしょうか」
「大丈夫、待ってます」
コーヒーが出来上がるのを待つ。
一度だけ、大きく上に伸びをした。
今日の仕事はもう全て終わらせた。満足感を感じながら、小腹が空いてきたので、フードメニューを開いてみる。
やがてコーヒーが運ばれてくる。
コーヒーの酸味にはまだ慣れない。
桜散る
釉薬が固まり、独特な香りが少しずつ薄れてきた美術準備室の片隅で、先生は転寝をしていた。椅子を行儀悪く、カタンカタンと斜めにしながら、窓枠に肘をついていた。カホンのような椅子は、釘が飛び出していた。
起こすべきか起こさぬべきか。そもそもが狸寝入りだと分かっていながら、そんなことを考えてしまう。
空は嫌味なくらい晴れている。
先生は、毎日夜遅くまで、試験対策に付き合ってくれた。
スランプに陥った十月頃、自暴自棄になっていた自分に根気強くアドバイスをくれた。
校則でスマホは持ち込み禁止だけど、今日だけは良いと、何かあれば先生が説明するからと言ってくれた。
一緒に確認しようって約束したのに、待ち切れずに見ちゃったのがいけなかったのかなあ。
先生はおそらく開口一番に、白々しく「おお、どうした?」と言ってくるんだろう。
ああ、いやだ。こんな時に限って、空は嫌味なくらい晴れている。
届かぬ思い
靫。
靫葛。
ゆぎ。
うつぼ。
ゆぎかずら。
シュルレアリスムの絵画の前で呟く。ゆぎという読みを初めて知った。
久しく通っていなかった美術館。でも明日には大学卒業を控えていたから。
最後の思い出ということで、加盟してる大学の学生なら無料で入れるってやつを使った。
常設展は、常設展だった。
有名なものは一つもなかった。
でも動けなかった。見飽きててもまだ興味があるふりをする。
そっと隣に立ってみる。
まだ少しかかりそうかな?とか。移動するタイミングを見計らうけど、あんまり見てたら不自然だ。
シュルレアリスムの絵画を見る。
靫葛の穴は大きなおじさんで埋まっていて、その肌は悪夢かと思うくらい原色の赤だった。
額縁が綺麗だと思った。