欲望
一眼見た時に確信した。今まで感じたことのないエネルギーが血管を迸り、体に熱を与え、呼吸を早くさせる。
電信柱が邪魔だ。黄色と黒のストライプが、ペットの粗相に威嚇するポスターが邪魔だ。防犯灯に照らされた長く漆黒で艶やかな髪も邪魔だ。距離が邪魔だ。鞄が邪魔だ。腕が邪魔だ。服が邪魔だ。
真っ直ぐに、ただ純粋な汚辱を通過して、愛を育めばいいと思う。
遠くの街へ
全略。
列車より。愛を込めて。
現実逃避
きっかけは、小学生の頃に借りてきたなぞなぞの本だった。SNSアプリを漁ってる時に偶然目についた問題を、気が向いたら解いてみるような、そんな程度の趣味だった。
それが謎解きだと明確に知ったのは高校生の時。きっかけがなんだったのかはわからない。
素人が作ったであろう問題を内心小馬鹿にしながら、答えと解説を見てみる。案の定納得のいかなかった問題だったので、すぐに読み飛ばした。
見たことのないネットミームのようなものが流れてきた。面白い。謎解きは大して重要ではなかった。
あいつが語った夢は醜く歪んでいる。そう思い込むようになったのは、いつ頃からだろうか。禁忌肢を避けたかっただけだったのに。いつのまにかシンクネットに絡まった出生不明の塊のように、卑屈で空っぽなキャラを演じるようになっていた。
スマホをスワイプする。一日が終わっていくのがわかる。
スマホをスワイプする。一日が終わっていく。
君は今
文体がまた変わっていた。
これも味ってやつなんだろう。
物憂げな空
一つの点を基準とした穏やかな回転対称が表す三角形が、望遠鏡も準備も何もしていない田舎風景の夜空の中で、やけにくっきりと目立って見えた。
観衆は眼下の夜桜を排斥し、ただただ上を見上げている。目が合った気がした。
古めかしいカビの匂いがほのかに漂うホテルのベランダで、備え付けてあった缶ビールを開けた。建物の隙間から、暗い桜が風に揺れているのが見えた。
首元にまだ残っている煙草の匂いと、開けた缶ビールの新鮮な横顔が、背後の回転ベッドに置いた鞄と吸い殻を、そしてそれを彩るピンクの間接照明を忘れさせてくれる。
観衆は思い思いの写真を撮っている。ふとスマホのアルバムを見返してみる。特段面白いものはなかったので、もう一度視線を外に移した。
花火が上がった。どよめきが黒い空に載せられた。園児の持った絵筆が、一心不乱に書き殴ったような花火だった。静かな花火だった。観衆の目的は星空ではなかった。
缶ビールの、最後の一滴を口に落とした。
隣の工房で新たに生まれたオルゴールが産声を上げる。ずっとどこかで鳴っている周期的な異音が、静かに肯定してくれた。