桜散る
釉薬が固まり、独特な香りが少しずつ薄れてきた美術準備室の片隅で、先生は転寝をしていた。椅子を行儀悪く、カタンカタンと斜めにしながら、窓枠に肘をついていた。カホンのような椅子は、釘が飛び出していた。
起こすべきか起こさぬべきか。そもそもが狸寝入りだと分かっていながら、そんなことを考えてしまう。
空は嫌味なくらい晴れている。
先生は、毎日夜遅くまで、試験対策に付き合ってくれた。
スランプに陥った十月頃、自暴自棄になっていた自分に根気強くアドバイスをくれた。
校則でスマホは持ち込み禁止だけど、今日だけは良いと、何かあれば先生が説明するからと言ってくれた。
一緒に確認しようって約束したのに、待ち切れずに見ちゃったのがいけなかったのかなあ。
先生はおそらく開口一番に、白々しく「おお、どうした?」と言ってくるんだろう。
ああ、いやだ。こんな時に限って、空は嫌味なくらい晴れている。
届かぬ思い
靫。
靫葛。
ゆぎ。
うつぼ。
ゆぎかずら。
シュルレアリスムの絵画の前で呟く。ゆぎという読みを初めて知った。
久しく通っていなかった美術館。でも明日には大学を卒業を控えていたから。
最後の思い出ということで、加盟してる大学の学生なら無料で入れるってやつを使った。
常設展は、常設展だった。
有名なものは一つもなかった。
でも動けなかった。見飽きててもまだ興味があるふりをする。
そっと隣に立ってみる。
まだ少しかかりそうかな?とか。移動するタイミングを見計らうけど、あんまり見てたら不自然だ。
シュルレアリスムの絵画を見る。
靫葛の穴は大きなおじさんで埋まっていて、その肌は悪夢かと思うくらい原色の赤だった。
額縁が綺麗だと思った。
言葉にできない
らーらーら……
ららーらぁ
春爛漫
レジャーシートをカバンに入れて、水筒、弁当も持った。忘れ物の確認は済んだ。
まだ楽しみはとっておきたいから、足元の花びらだけを見ていると、公園はどこも人でいっぱいだという、携帯が一回鳴った。
誰よりも、ずっと
車窓から垣間見えた看板から幾星霜。
姿見の前でポーズを取る。
電車が通過した音に、シャッター音も掻き消される。
今日買ったネグリジェには、下品にならない程度にレースが入っていた。
まあ。
築年数がやばいアパートでそんなことしてもまあ格好がつかないわけで。
でもそれもそれでいいじゃんって思うわけで。
誰に言い訳してんだって話なんだけど、まあ、出来ればいい写真を送りたいのは本当。でも取り繕った写真も嫌。
だから送りつけてやる。
みていやがれこのやろー。