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4/2/2026, 12:06:44 PM

大切なもの(オリジナル)

私は色々と執着が強い方だと思う。
だから、大切なものが多かった。
思い出の品しかり、お気に入りのものしかり。
けれど。

大地震と津波の後。
何も残らなかった。
大切だった我が家。
思い出の写真や小物。
思い出の原風景。
何もかもが一瞬でなくなってしまった。
心に穴があいたようだった。
自分には何もなくなってしまったような虚無感。

けれど。
生き残った我々は、記憶を共有している。
大切なものを失った悔しさも絶望も、皆同じ。
本当に大切なものというのは、思い出語りができる仲間なのかもしれない。
命があって良かった。
仲間がいて良かった。
大切なものは、またこれから積み上げていこうと思う。

4/1/2026, 1:32:05 PM

エイプリルフール(914.6)

4月1日。
期初、色々スタートする公式発表のタイミングなのに、本当か嘘か疑わないといけないの、しんどい。
注釈なしでも誰が見ても明らか嘘とわかるネタは好き。
そういうのばっかりだと良いのになぁ。

3/31/2026, 12:16:42 PM

幸せに(オリジナル)(秘密の手紙続編)

俺は最期の手紙配達員をしている幽霊だ。
心残りがあって成仏できない人の手紙を相手に届ける仕事をしている。
今日、仕事はオフで、行くところがあった。
姉貴の結婚式だ。

幽霊になって知ったのだが、墓参りされると、そうとわかる体質になっていた。
何なら墓に意識と体が持っていかれそうになる。
姉貴は俺の墓に結婚報告をしてくれた。

5つ上の姉。
当時から付き合っていた人とめでたくゴールインだ。
俺の事故死があって少し伸びてしまったのだと思う。

幼い頃、俺は姉にとても可愛がってもらった。
共働きの親に代わって世話をしてくれた。
俺が野球を始めると、送迎などで母が俺につきっきりになった。
きっと、子供心に寂しかったり嫉妬したりしたに違いないのに、俺は姉に当たられた記憶がない。

姉貴は俺の墓石に結婚式の招待状を置いて、
「あんたも来なよ」
と言った。
現世にまだ残っていた俺は、晴れて出席というわけだ。

結婚式は地元で有名な式場で行われた。
家族卓に俺の席が用意されて、遺影が置かれていた。
時々俺の話題になるが、皆しんみりするのでやめてほしい。せっかくの晴れの場だ。楽しくやって欲しい。

姉貴は親族席まで来ると、俺の写真を見ながら、
「かずや、見てる?」
と言った。
愛おしげな表情に、俺が照れる。
「見てるよ、姉貴。馬子にも衣装だな」
つい、いつものように憎まれ口をたたいてしまう。
相手に聞こえやしないのに。
姉貴は一瞬仄暗い空気を纏わせて、
「あんたがいなくなった喪失と怒りがずっとおさまらなかったけど、これからもずっと忘れないけど……私、幸せになるからね」
最後は明るく言った。
両親が目頭を押さえて泣いている。
俺も泣いた。
「そんなの良いよ…姉貴。ずっとありがとう。一度もお礼も言えずにごめん。俺の事なんて気にせず、幸せになれよ」
幸せになってください。
俺は幽霊で、生身の人間には声も姿も認識されないが、せめてこの気持ち、祈りだけは。
届け。
届け。

3/30/2026, 12:55:37 PM

何気ないふり(オリジナル)

私、40代女。隠れオタクである。
職場に、それと一見わからないグッズを飾り、ひとりニマニマするのが日課である。
本日、職場のご年配のおじ様が持つ鞄に目が釘付けになった。
その鞄は、先日発売になった、90年代マイナーロボットアニメの復刻グッズであった。
その鞄、表にキャラ絵もなければアニメ名の記載もない。作中に出てくる鞄のデザインを再現しつつ、その世界の世界地図と紋章をさりげなく刻印してあるオシャレ革鞄で、私の大好きな、わかる人にしかわからないグッズであった。
ちなみにこの鞄、結構高かったので、私は推しキャラの紋章キーホルダーとシールしか買っていない。
(え?嘘、あの人もオタクなのかしら)
彼とは知り合い程度で、深く話をした事はない。
この職場にアニオタがいると聞いた事もない。
もっとも、私も隠しているので、実はいるのかもしれないが。
彼と作品の話がしたくてソワソワしたが、話しかける直前に思いとどまった。
(いや、待てよ。あの歳でアニオタとかあるか?誰かからプレゼントされて知らずに使ってるとか、あるかも?ここで作品名でも言おうものなら私がオタバレするのでは?)
私は慎重に、何気ないふりを装って声をかけた。
「あ、佐藤さん、鞄変えたんですねー。格好良い!それ、どこで買ったんですか?」
我ながら白々しい。
彼は顔をあげて私を見て、にこりと笑った。
「ありがとう。孫がネットで買ってくれてね」
(あっっぶねぇ!!お孫さんだったーー!!)
私は冷や汗をかいた。
(っっかぁーっ!!90年代アニメなのに若い子が知ってるとか、渋い趣味してんなぁ!!お孫さんとお友達になりてぇーー!!)
私は内心叫び散らかしていたが、表では平然を装った。
「お孫さん、良い趣味してますね」
ブランド品でない事は知っているので、その辺りは避けて言う。すると、彼は少し戸惑ったように、
「あ、いや、これは僕が欲しくて孫にネットで買ってもらったんだ」
と言った。
(え?)
私は目が点になった。
しかし、ぬか喜びはまだ出来ぬ。彼がアニメグッズと知らずにネット検索してデザインだけで選んだ可能性も少しはある。
(ある、か?)
私の葛藤を知ってか知らずか、彼は首を傾げ、
「永野さんはこれ、知ってると思ったんだけど」
と、爆弾発言をかましてくれた。
「え、な、なんで」
「君の机に置いてあるアレコレ、アニメやゲームのグッズでしょう。結構マニアだよね。このアニメも知ってるんじゃないかと思ってたんだけど?」
「…知ってます…大好きです」
私は観念して、彼と固い握手を交わしたのであった。

3/29/2026, 12:33:43 PM

ハッピーエンド(オリジナル)(異世界ファンタジー)

古代の重宝。
際限なく人の悪意を取り込み続け、持つ者の精神を蝕み、狂わせ、破壊の限りを尽くす魔剣があった。
魔術に優れた古代の技術ゆえ、解術もできず、破壊もできなかった。
コントロールは出来なかったが、巨大な破壊の力である。皆がそれを己の陣営に取り込みたがり、血で血を争う戦いが繰り返された。
やがて、ひとりの地上人が、その剣を手にする。
強靭な精神力を持つ正義の人であったが、徐々に精神を蝕まれた。
魔剣を狙う天上人や地底人の追撃から逃れ、北方の岩石地帯にまで追いつめられた。
天を埋め尽くすほどの天上人と、地を埋め尽くすほどの地底人が、彼を目指して殺到した。
彼は魔剣を空に掲げ、噴出する怒りや憎しみとともに、力を解放した。
(醜い者ども!!諸共に滅ぶがいい)
「うおおおおおお!」
剣から放出された黒い煙が、光のように高速で広がり、空を、地を、覆い尽くす。
バキバキと至る所で音がした。
黒い煙は、石化の煙であった。
一帯の膨大な数の天上人と地底人が、全て石となった。
空で石化した天上人が落ちて来て、石化した地底人に当たって砕ける。
剣を掲げた男も諸共に石となり、魔剣は大きな力を放出した反動で、力を失った。
魔剣を求める戦争が終わり、魔剣による被害者が出なくなった。
いわゆるハッピーエンドというやつだ。

けれど、最後に、かの魔剣を使った彼の仲間達は知っている。
彼がまだ正気の時に仲間を巻き込まないよう一人で出て行ってしまった事。彼は戦争を終わらせ、仲間や家族を守りたかっただけなのだ。決して死にたかったわけではなく、生きて戻ってくるつもりであったろう。
優しい彼の犠牲の上にできた平和であった。

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