雪(オリジナル)
冬の夜。
外をトボトボと歩いていた。
吐く息が白く、寒い。
公園を出てからずっと泣いていた。
涙で頬はバリバリだ。
深夜呼び出された公園で、彼氏に別れを告げられた。
25歳から13年、長く付き合っていて、このまま結婚するんだろうと思っていた。
しかし、彼は既婚者だった。
しかも、奥さんと別れる気は全くない。
裏切られたと思った。
私の13年を返して欲しい。
意気消沈する私の靴に、何かがふわりと落ちた。
見上げると、雪。
多量の雪が、ふわふわと降り始めていた。
天気予報では朝まで降ると言っていた。
私はキツく目を閉じ、顔に雪を浴びながら、天に祈った。
どうかこのまま降り続け、公園にある彼の遺体や私の痕跡を全て消してくれますように。
君と一緒に(オリジナル)(異世界ファンタジー)
おいらの話をしよう。
おいらは人に変化できる鳥族で、吉兆の吉鳥だ。
物心ついた時にはもう籠の鳥だった。
幸福を呼ぶ鳥として自由を封じられ、鳥族の王が住まう屋敷の奥に囲われていた。
けれど、おいらに吉鳥の自覚は全くない。
だから、ただの迷信だ。
虹のような七色の尾羽と、成長の進みが遅いという特殊体質のせいで縁起良く思われただけだと思う。
何の力もなく、だからこそ籠からの脱出もできず、日々を無為に過ごしていた。
変化が訪れたのは、王妃が双子を産んでからだ。
鳥族では双子、特に雌は不幸を呼ぶとして忌み嫌われていた。
おいらと同じく迷信だと思う。
とはいえ、おいらを囲っているのにこの不幸。効き目がないとわかって自由にしてくれたら良かったのに、そうはならなかった。
彼女はおいらの近くに幽閉された。
彼女はおいらの事など何も知らずに話しかけてきて、一緒に歌ったり遊んだりしてくれた。
幼くて無垢で可愛かったなぁ。
成長してしばらくすると、彼女は色々連れ出されて戻らない事が増えた。
戻ってくる時は大抵大怪我をしていて、息も絶え絶えで床に横たわっている事がほとんどだった。
鳥族には色々敵がいて、戦闘に駆り出されているらしかった。
不幸を呼ぶ雌などいつ死んでも良いという周囲の思いが透けて見えて、おいらは生まれて初めて怒りを覚えた。
けれど、彼女は強かった。
生き残り、能力を磨き、美しく優しく強く成長した。
決定的な事が起きたのは、王を継ぐ試練を双子の雄が受ける場面でのことだった。
あいつは命惜しさに彼女を盾にしたんだ。
彼女はヤツの代わりに無事試練を乗り越えたが、それを知られる事を恐れた雄が彼女を殺そうとした。
おいらはその時、試練にちょい巻き込まれて籠から放り出されていたので、彼女とともに逃げ出す事ができた。
追っ手から逃れるため人型に変化したおいらを見て、彼女は驚いていた。
見た目がかなり年下の少年だったからだろう。
おいらの特殊体質の事を、彼女は知らない。
実は彼女の5倍は長く生きているおっさんなんだが、それは秘密だ。
初めての自由。
見た目相応に年甲斐もなくはしゃいでいたら、色々事件に巻き込まれた。その度に彼女に呆れられたり助けられたりもしたけれど、良い出会いはあったと思う。
彼女ははその間、こっそり恋したり失恋したりもあったようだけれど。
心配しないで、大丈夫。
おいらはずっとそばにいるよ。
彼女とともにいられるのであれば。
どこにいようとも、何があろうとも、楽しく生きていけるし、ともに死ねる。おいらは本当に、何の力もないのだけれど、彼女にとっての吉鳥でありたいと思うんだ。
冬晴れ(オリジナル)(SF)
宇宙船の中に、地球を想起させるホロルームがある。
乗組員の人種は様々なので、設定は多種多様だ。
朝、昼、夕、夜、白夜、オーロラ、星空、満月。
雨、雪、台風、雷、濃霧、虹、ダイヤモンドダスト。
砂漠、平原、熱帯雨林、教会、寺社、エトセトラ。
その中に「冬晴れ」もあった。
「冬なんて、重い雲がたれこめて晴れる日なんてないと思うのだけれど、どこの設定なの?これ」
一緒に来たファイフが、呆れたように言った。
「しかも、冬だから寒いんでしょ?そりゃ台風設定も体感する意味わかんないけど、温度も自在な宇宙船で何も不快な設定味わう必要なくない?」
彼女の言い分はもっともではあるが、僕は否定する。
「地球の様々なものを忘れないためのホロだからね。それに、僕は根っこがJAPANだから、こういう組み合わせを見ると心が震えるようにできているんだよ」
そう言って、僕はホロを「冬晴れ」と「富士山」で設定した。
あたりの空気が冷え込んだ。キンと冷えた空気の中、遠くに雪をいただいた形の良い山が小さく見える。
「ほら、素敵だろう?」
「ふぅん?まぁ、神聖な感じはあるかもね」
彼女はそう褒めてくれた。
僕の方はというと、JAPAN設定ゆえにストレス値が下がり、電脳内がクリアになった。
宇宙で長く生きるため、生き残るため、人体改造を続けた結果の今であった。
乗組員は全員、機械と人工物の体に、電脳を組み合わせた個体となった。
後世に様々なものを残すため、個人の個性や特性を残し、船内で各種コミュニティを作って生活している。
例えば、僕は日本、ファイフは北欧。
地球はもうない。
なので、この景色も現存しない。
過去の情報として存在するだけ。
僕はその事実に悲しみを感じたけれど、涙袋がないので泣けなかった。
幸せとは(914.6)
良い友には幸せになってもらいたいと思う。
でも、自分が積極的に関わって、彼、彼女を幸せにしたい(できる)とは思わない。
誰かが幸せにしてくれ、と思う。
他力本願である。
とはいえ、自分が関わって幸せな時間を過ごしてもらえたなら、それはそれで嬉しい。
私の幸せである。
Win-Winである。
幸せに思うものは、人それぞれである。
科学的には脳内にセロトニンが出る行為の事なのだろうが、それが何かは人によって違う。
幸せになるとは、質より数ともいう。
ささいな事に幸せを見出せる方が有利である。
美味しいものを食べて、
暖かい布団で寝て、
衣食住に困らぬ程度のお金があって、
好きな本が読めて、
好きな事や物や者があって、
もう、それだけで幸せである。
明日から仕事であるし、日々嫌な気持ちになることもあるが、気持ち切り替えていこう。
創作したいのに914.6ばかり…。
良い創作が浮かびませぬ。
「エッセイ」というには恥ずかしすぎて、図書館の分類記号で誤魔化しております。
日の出(914.6)
日の出の思い出はほぼ登山の思い出である。
日本アルプスの稜線歩きでは、午後の雷を避けるため、道程が長い場合は日の出前に山小屋を出た。
ヘッドランプをつけて歩き、日の出を迎える。
暗い中ヘッドランプをつけて歩くのにワクワクした。
ご来光ツアーで行った富士山では、山小屋で一休みして夜中から山頂へ向かうのだが、大混雑で山の中腹でご来光を見る事になった。
高山病の頭痛で結構苦しかったが、富士山を見るたびにあのてっぺんに行った事があると思えるのが良い経験になった。
……どちらもメインが日の出の思い出じゃないな(笑)
日常では、夜明け前に家を出て、移動の電車内で日の出を見たりすると、通勤であっても旅行気分でちょっとワクワクする。
日の出はどこで見ても楽しいイベントという事かもしれない。