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冬晴れ(オリジナル)(SF)

宇宙船の中に、地球を想起させるホロルームがある。
乗組員の人種は様々なので、設定は多種多様だ。
朝、昼、夕、夜、白夜、オーロラ、星空、満月。
雨、雪、台風、雷、濃霧、虹、ダイヤモンドダスト。
砂漠、平原、熱帯雨林、教会、寺社、エトセトラ。
その中に「冬晴れ」もあった。

「冬なんて、重い雲がたれこめて晴れる日なんてないと思うのだけれど、どこの設定なの?これ」
一緒に来たファイフが、呆れたように言った。
「しかも、冬だから寒いんでしょ?そりゃ台風設定も体感する意味わかんないけど、温度も自在な宇宙船で何も不快な設定味わう必要なくない?」
彼女の言い分はもっともではあるが、僕は否定する。
「地球の様々なものを忘れないためのホロだからね。それに、僕は根っこがJAPANだから、こういう組み合わせを見ると心が震えるようにできているんだよ」
そう言って、僕はホロを「冬晴れ」と「富士山」で設定した。
あたりの空気が冷え込んだ。キンと冷えた空気の中、遠くに雪をいただいた形の良い山が小さく見える。
「ほら、素敵だろう?」
「ふぅん?まぁ、神聖な感じはあるかもね」
彼女はそう褒めてくれた。
僕の方はというと、JAPAN設定ゆえにストレス値が下がり、電脳内がクリアになった。

宇宙で長く生きるため、生き残るため、人体改造を続けた結果の今であった。
乗組員は全員、機械と人工物の体に、電脳を組み合わせた個体となった。
後世に様々なものを残すため、個人の個性や特性を残し、船内で各種コミュニティを作って生活している。
例えば、僕は日本、ファイフは北欧。

地球はもうない。
なので、この景色も現存しない。
過去の情報として存在するだけ。

僕はその事実に悲しみを感じたけれど、涙袋がないので泣けなかった。

1/5/2026, 12:50:06 PM