祈りを捧げて(914.6)
無宗教だけれど事あるごとに漠然と神に祈っている。
チケットが当たりますように。
合格しますように。
バチが当たりますように。
元気でありますように。
幸せになりますように。
そこに、具体的な神様の名前はない。
本当はそれぞれに得意な神様がいると思うのですが。いったい、誰に祈ってるんでしょうね。
遠い日のぬくもり(914.6)
クリスマスイブなので、ケーキを買って帰る役目を仰せつかりました。
会社帰り、長いケーキ列に並んで目的の物を買えたのですが、私の後ろに並んでいたお婆さまが、
「こちらいただけるかしら」
と指差したSサイズのケーキは売り切れていました。
Mサイズに悩んで、日持ちがすると聞いてそちらをご購入されていたのですが、その様子に、胸がキュッとなりました。
ケーキを買うって、とてもワクワクする事だと思うんです。喜んでくれるかな、楽しんでくれるかなって思って買うのがほとんどだと思うんです。
ウキウキしながら頑張って並んで、目的の物が買えなかった時のガッカリ感。
しかも高齢の方となると、もしかしたら本人は何とも思っていないかもしれませんが、私はもう、可哀想で愛おしくて、なんだか、勝手に妄想して、勝手に泣きたくなってしまいました。
私、例えば足が悪い老人が懸命にスーパーまで行って、買いたいものが買い占められていて買えない時とか、テレビドラマの壬生義士伝で、大野次郎右衛門が吉村貫一郎のためにおにぎりを作って持って行ったら吉村がいなくなっていた時など、食べ物に関する期待や善意の空振りに、めちゃくちゃキュンとなる傾向にあります。
無辜の民に幸あれ。
今日のお婆さまも、どうか、大きなケーキを笑い話にして、楽しいクリスマスを過ごされますように。
揺れるキャンドル(914.6)
時期的にクリスマスを連想するお題だと思うのですが、命のロウソクやら幽霊やら黒歴史やら詐欺やら、物騒な話しか思い浮かばなかったのでちょっとボツ。
綺麗で素敵なお題なのに…とほほ。
明日は寒いようですが、暖かくして、素敵なイブをお過ごしください。
光の回廊(オリジナル)(異世界ファンタジー)
ライは時々結界の外に出る。
魔法文明が発達していた古代の遺跡をまわり、その時代の魔剣や魔道具を、悪用されないよう回収してまわっているのだ。
結界の外は精霊の加護が薄く、身体の機能をあまり補助できないので、傷のある顔を隠すため深くフードを被り、片足を引きずり、杖をついての遠出になる。
今日も一人で近くの森を探索していた。
小さな光の精霊が目の前でキラキラユラユラとライを先導している。
やがて木々の隙間から、石造りの壁が見えてきた。
「ありがとう」
礼を言うと、精霊は嬉しそうにライの周りをグルグルまわり、青空に溶けて消えていった。
ライは壁沿いにゆっくり歩きながら、その建物を観察した。
屋根が崩れ、壁のみが地面に斜めに刺さっている。
成長する木々に飲み込まれている箇所もあり、建築様式や苔むした古び具合からしても、探している古代のものに思われた。
壁に手を当てると、ほのかに魔力の残り香があった。
目を凝らすと、壁画が描かれているようである。
布で壁面の汚れを丁寧に擦ると、ふわりと何かが動いた。
壁画がほのかに光を発する。
遠く、人の笑い声がした。
壁画が、動いていた。
(ああ、これは)
ライは懐かしさに目を細めた。
(塔の80階付近にあった中庭の回廊か)
かつてこの世界にはバベルの塔があった。
塔の中では様々な魔法研究が行われており、多くの人種が働いていた。
しかし塔は一夜にして崩壊し、時空の狭間に飛ばされた。
浮遊石を埋め込んだ上層階は空に残って今日の天上界を形成し、一部の吹き飛んだ階層は時空嵐に巻き込まれず、結界の外に落ちた。
壁はその残骸であり、ライはその時建物と共に時空に飛ばされ、戻ってきた古代人である。
当時、魔法世界を讃えた歴史絵巻のような壁画を、80階層の研究者が作っていたのを覚えている。
顔見知りの研究者が、壁画の中で、年若い見学者と弟子にまとわりつかれながら解説者となって歴史を語っていた。
当時、ここは皆の憩いの場だった。
屋内なのに、自然光を引き込んでベンチを並べ、まるで屋外の公園にいるようだった。
今は苔生し、色も剥げ、魔力も薄れ、見る影もない。
けれど、ライの脳裏にはまだ鮮やかな壁画の記憶があった。
美しくて朗らかな、光の回廊の記憶。
(懐かしいなぁ)
塔崩壊時の戦闘で痛めた足が痛くなってきたので、ライは手頃な大きさの平らな石の上に腰を下ろした。
帰りが遅いのを心配した仲間がすっ飛んで迎えに来るまで、目を閉じて当時の人々の生きた証である壁画の笑い声に耳を澄ませるライであった。
降り積もる想い(TOV)注:腐向け
きっかけは覚えていない。
けれど、それは着実に嵩を増している。
ああ、好きだなぁと思う、その想い。
ザーフィアス城の牢屋で会った時、もうすでにちょっと好きではあったと思う。壁越しの気持ちの良いやりとりと、長髪の似合う、男らしい見た目と。
そうでなければ鍵など渡すものか。
世界を旅する彼を追った。
自分の意思ではなく、任務だったけれど。
仲間を増やし、行く先々で問題を起こし、解決して行く様を見た。
仲間への真剣な想いを感じるたび、彼の新しい顔を知るたびに、いいな、と思った。
エステルを叱る時の、まるで兄のような包容力。
かと思えば、自身の世間知らずを自覚して、カロルを頼る時の素直さ。
幼馴染であるフレンと通じ合っていて、阿吽の呼吸を見せる時の無敵感。
ジュディスと共闘する時の戦闘狂っぷり。
ラピードとの心の通った連携と会話と信頼。
リタへのさりげない気遣い。
グイグイ来るパティへのあしらい上手。
そして、自分、レイヴン相手の心地よい会話のキャッチボール。
こんな胡散臭いおっさんなのに、少しづつ信頼してくれているのを感じる。
心配して声もかけてくれる。
男前。
それなのに、好物は甘いもので、クレープを食べる時は年相応の笑顔を見せる。
そして何より、自身で選択し、それに責任を持つ強さ。
闇深い行為にも決意と覚悟が見えて。
眩しくて、
可愛くて、
格好良くて。
良いなぁ。
良いなぁ。
好きだなぁ。
人はこれを恋という。
知ってはいるけれど、認めたくなくて足掻いてみたけれど、ドンにも「惚れたな」と指摘される始末。
あの時は慌てて否定したけれど、それから自覚して、静かに気持ちを降り積もらせている。
まことに乙女極まりないが、決して報われない、報われてはいけない片恋というやつだ。
誰にも迷惑をかけないので、想うことだけ、許して欲しい。