光の回廊(オリジナル)(異世界ファンタジー)
ライは時々結界の外に出る。
魔法文明が発達していた古代の遺跡をまわり、その時代の魔剣や魔道具を、悪用されないよう回収してまわっているのだ。
結界の外は精霊の加護が薄く、身体の機能をあまり補助できないので、傷のある顔を隠すため深くフードを被り、片足を引きずり、杖をついての遠出になる。
今日も一人で近くの森を探索していた。
小さな光の精霊が目の前でキラキラユラユラとライを先導している。
やがて木々の隙間から、石造りの壁が見えてきた。
「ありがとう」
礼を言うと、精霊は嬉しそうにライの周りをグルグルまわり、青空に溶けて消えていった。
ライは壁沿いにゆっくり歩きながら、その建物を観察した。
屋根が崩れ、壁のみが地面に斜めに刺さっている。
成長する木々に飲み込まれている箇所もあり、建築様式や苔むした古び具合からしても、探している古代のものに思われた。
壁に手を当てると、ほのかに魔力の残り香があった。
目を凝らすと、壁画が描かれているようである。
布で壁面の汚れを丁寧に擦ると、ふわりと何かが動いた。
壁画がほのかに光を発する。
遠く、人の笑い声がした。
壁画が、動いていた。
(ああ、これは)
ライは懐かしさに目を細めた。
(塔の80階付近にあった中庭の回廊か)
かつてこの世界にはバベルの塔があった。
塔の中では様々な魔法研究が行われており、多くの人種が働いていた。
しかし塔は一夜にして崩壊し、時空の狭間に飛ばされた。
浮遊石を埋め込んだ上層階は空に残って今日の天上界を形成し、一部の吹き飛んだ階層は時空嵐に巻き込まれず、結界の外に落ちた。
壁はその残骸であり、ライはその時建物と共に時空に飛ばされ、戻ってきた古代人である。
当時、魔法世界を讃えた歴史絵巻のような壁画を、80階層の研究者が作っていたのを覚えている。
顔見知りの研究者が、壁画の中で、年若い見学者と弟子にまとわりつかれながら解説者となって歴史を語っていた。
当時、ここは皆の憩いの場だった。
屋内なのに、自然光を引き込んでベンチを並べ、まるで屋外の公園にいるようだった。
今は苔生し、色も剥げ、魔力も薄れ、見る影もない。
けれど、ライの脳裏にはまだ鮮やかな壁画の記憶があった。
美しくて朗らかな、光の回廊の記憶。
(懐かしいなぁ)
塔崩壊時の戦闘で痛めた足が痛くなってきたので、ライは手頃な大きさの平らな石の上に腰を下ろした。
帰りが遅いのを心配した仲間がすっ飛んで迎えに来るまで、目を閉じて当時の人々の生きた証である壁画の笑い声に耳を澄ませるライであった。
12/22/2025, 1:47:46 PM