「悪法もまた法なり」という言葉をソクラテスが残したというのは、実は誤りであったらしい。
だったら、と思う。
この言葉を盾に無理難題を強いられた人はどうなるんだろう。ソクラテス自身ではなく、現代社会を生きる私達の中に、この言葉のせいで自分自身を追い詰めてしまった人がいるかもしれない。
逆に「ルールは破るためにある」という言葉もある。
この言葉を自分に都合よく解釈して、好き勝手に振舞った人間もいただろう。
理不尽な法、人権や尊厳を守らない法は確かに守る必要は無いだろうけれど、それを変えるのだって一定の「ルール」が必要だ。
社会生活というのは、尊厳と社会規範、個人と集団、そういったもののバランスをいかに取るか、という難しい命題と常に隣り合わせなのだ。
END
「ルール」
空とおんなじ。
どんより曇って、時々ざあっと雨が降る。
職場のアレコレにイライラモヤモヤして、当たり所が無くて歩き方とか物の扱いに苛立ちが滲み出る。
なかなか晴れないなぁ。
END
「今日の心模様」
今回はお休みします。
「たとえ間違いだったとしても」
ザリ、ザリ。
静かな部屋に音が響く。
「痛かったら言ってよ」
剃刀の刃が頬を伝う。その度にザリ、ザリという音が響き、ピリピリした感触が広がっていく。
「·····」
〝髭、伸びてきたね〟
言われて頬を撫でれば、確かに少し伸びていて不揃いになっていた。
〝暇だし整えてあげようか〟
突然の申し出にポカンと口を開けていたが、相手はそうしようそうしようと勝手に話を進めていく。
剃刀、洗い桶、タオル、クリーム。一通りの道具を並べさて、とこちらを向く気配。
〝昔、ちょっとアイツにやってやった事あるから大丈夫だよ〟
一抹の不安を抱きながら、言われるがまま椅子に座り顔を上げたのが、少し前のことだった。
穏やかな午後。
季節は春の盛りで気候はぽかぽかと温かい。
思わず寝入ってしまいそうになるが、ザリザリと剃刀が当たる感触がそれを許さない。
それは今、髭を剃ってくれている相手の所為でもあるのだが·····。
「·····?」
ほとりと、不意に頬に何かが当たった。
続けてまた一つ、何かが当たる。それが上から落ちてきた雫だと気付くと同時に、剃刀の動きが止まった。
「どう、したんで·····?」
恐る恐る聞いてみる。
相手は答えない。頬に落ちる雫は一つ、また一つと増えていく。やがてカタンと音がして、髭を剃る手は完全に止まってしまった。
「·····悪い、もう終わったよ」
身を起こし、頬に手を当てて落ちてきた雫を拭う。
――この、水滴は。
そそくさと片付け始めたその手を掴んで引き止めた。
「泣いてたんで·····?」
「なんでもない」
「なんでもないって事は無いでしょう」
「·····君には見られたくないところばかり見られるなぁ」
ぼやく声が、何故か艶めいて聞こえる。
涙の理由は分からない。――けれど。
「私じゃ、相手になりませんか?」
掴んだ手の中で、長い指がピクリと跳ねる。
「見て見ぬふりは得意ですから」
そう言うと、少しの間があって。
「うそだぁ」
とおどけた声がした。
END
「雫」
そう思えるのは満たされている証拠だと思う。
END
「何もいらない」