あーあ、見つかっちゃった。
カンがいいのも考えものだねぇ。
綺麗でしょ? これ。
これは眼球。
これは指。
これは髪。
これは爪。
これは耳。
これは舌。
見た事あるのもあるんじゃない?
アレ? なんでそんな離れるの。お店に並んでるのと大差ないでしょう。ただ、それが〇〇かどうかってだけで。これに驚いてちゃ駄目だよ。
ほら、こっち見て。
これは嫉妬。町外れの教会のシスターが同室の子に恋人を取られた時の目。
これは怒り。子供好きで知られたお菓子屋のオジサンが子供を殴った日に食い縛った歯。
これは悲しみ。名の知れた剣道の師範が妻を強盗に殺された時の涙。
これは暴食。慎みをモットーとした教誨師が居酒屋で金踏み倒すほど食べた時の歯。
もう分かったね。あとの三つは怠惰、傲慢、色欲。私はこれらを綺麗なボトルに入れてコレクションしてる。清廉潔白な人の大罪ほど綺麗なものは無い。
見てしまったからには手伝って貰おうかな。
そろそろ引っ越すつもりだったから。
誤魔化したって駄目だよ。
君もワタシの〝同類〟だよねぇ?
END
「秘密の標本」
「さみぃ·····」
そう言って布団に忍び込んできた恋人に、小さく笑った。
「私は体温高いから嫌だって言ってなかった?」
丸くなる背中にケットを掛けてやりながら尋ねると、「今はさみぃもん」とまるで子供のような答え。
これで三つも歳上なのだから笑ってしまう。
「夏になったらまた離れていく癖に」
「冬になったらちゃんと帰ってくるからいいでしょ?」
布団の奥深くに潜り込んでそんな事を言う。
「――どっかの神話にあったね。冬の間だけ地下の王様の妻になる話」
「逆だろ。妻になりに行くから地上が冬になっちゃうんだ」
「どっちでもいいよぉ」
「本当は一年中そばにいて欲しいんだけどな」
「束縛はしない約束でしょお」
「だから我慢してる」
地下の王は寛大だったと思う。
布団から這い出してカーテンを開けると、朝の眩しい光が入りこんできた。
「朝飯出来たら起こしてやるよ」
「ふぁい·····」
もう寝落ちしかけている。
滅多に無い二人同時の休日。
今はこの歳上の恋人を目一杯甘やかして、いつか自分のそばから片時も離れないようになればいい。
地下の王になった気分で、男は笑った。
END
「凍える朝」
光と影。
光と闇。
正反対のものとしてよく表現される二つ。
影は光が無ければ出来ないが、闇は光が無くても存在する。影と闇。微妙に違う二つの黒。
影は光の従属物なのかもしれない。
闇は光を飲み込む侵略者なのかもしれない。
光は万物を照らす生命の源だけれど·····意外と弱いものなのかもしれない。
END
「光と影」
「そして、私は真実を知ったのです。これは私とごく一部の者しか知らない世界の真実です。この世界のあらゆることを影で操っている何者か。その正体を体に星の痣のある選ばれた人だけが知っているのです。私のように貴方もその仲間になれば、この世界が誰によって動かされているのか知る事が出来ます。是非私達のセミナーに·····」
なんて語り出す人は危ないから近付いちゃ駄目だよ、って、何度も何度も口を酸っぱくして言ってきたのにさぁ·····。
よりによって身内がそうなるなんて、誰が想像出来たんだよ·····。
はーあ。
今までは比較的順風満帆な人生だったのになぁ。
どうやって説得しよう·····。
そして·····。
そして、僕は途方に暮れる。
END
「そして、」
もしも私がアナタと同じ生き物であったなら、この思いを伝えることも出来たのだろう。
脆弱で、ちっぽけで、アナタ達という庇護者がいなければ生きていけない私達は、ただ一つ与えられた特殊な力でアナタという存在を知る奇跡に出会えた。
私と、私と繋がる仲間達は今、アナタという存在の信奉者になっている。
私はアナタのそばにいられるという栄誉に浴し、アナタの手に触れられる悦びを、アナタの声を聞く恍惚を、全身で受け止めている。
アナタにとって私はただの道具であり、飼育物である。それ以上でも以下でもない。
私がアナタにこんな思いを抱いているなんて、想像もしないのだろう。それでいい。
アナタは光。
私はアナタの為に道具としての勤めを果たしながら、アナタに触れられた悦びを、微かな念波に乗せて仲間達へと伝える。
アナタは気付きもしないだろう。
私がどれほどアナタに恋焦がれているか。
この微弱な、小さな小さな愛はアナタに気付かれることなくただ静かに寄り添って、やがてアナタの命が終わるその時までじわじわと広がっていくのだろう。
アナタの長い指が伸びて、私に触れる。
END
「tiny love」