アレ、結局なんだったのかね。
お・も・て・な・し って。
何か残ったモノがあったのだろうか。
END
「おもてなし」
その目に気付いたのはいつだったか。
最初はああではなかったと思う。
強い眼差しではあったが、まだ触れられるあたたかさのようなものがあった。
「·····」
あぁ、また。
瞳の奥で、消えない焔が揺れている。
触れたら一瞬でこちらが消し炭になってしまいそうな、超高温の炎がその瞳には宿っている。
彼は私をどうしたいんだろう。
自分一人のものにしてしまいたいのか。
心も、体も。
もうとっくに私は彼のものだというのに。
他の誰にも触れさせないつもりなのか。
そんな出来もしないことを望んでしまったのか。
·····あぁ、そうか。
出来もしないこと、じゃないから彼は今、あんな目で私を見つめるのか。
やろうと思えばいつでも出来る。私を閉じ込めて、他の誰の目にも触れさせないで、自分一人しか見えないようにして。そうして私を正真正銘、自分だけのものにしてしまいたいのか。
やろうと思えばいつでも出来るソレをやらない事に、私は何を思えばいいのだろう。
彼は知らない。
どろどろと煮え滾る消えない焔は、とっくに私の心を焼き尽くして燃やし尽くして、彼にすっかり囚われているということに。
「いいよ、いつでも」
君のその、消えない焔で私をいっそ燃やしてしまって。
END
「消えない焔」
どうして戦争はなくならないの?
人は死んだらどうなるの?
幽霊はいるの?
宇宙人はいるの?
死後の世界はあるの?
終わらない問いは一度考え出したら本当に終わらない。
今の私のもっぱらの疑問は
「推しはどうして尊いの?」
です!!!
END
「終わらない問い」
あの人は歩き方に少し特徴がある。
足を前に出す時、体全体が上下に揺れるのだ。
その、弾むような歩き方が俺は好きで、わざと遅れて少し後ろから眺めたりすることもあった。
ちょっと前に指摘したら、「そうなのぉ?」と初めて気付いたような反応。目を丸くしたその顔が可愛くて、そして可愛いと思ってしまった自分に驚いて、俺はあの人への恋心を自覚した。
今もあの人は、俺の少し前を弾むようにして歩く。
丈の長いコートがふわふわと上下に揺れる。
袖の辺りはまるで踊るようだ。
ふわふわと揺れる袖と裾が、風を受けて更に大きくはためく。
「――」
無意識だった。
「ん~? なに?」
俺は無意識にあの人の腕を掴んで引き止めていた。
「どうしたのぉ?」
間延びした声で聞いてくる。
「あ、いや·····」
腕を離して口篭る俺に、あの人は困ったように首を傾げて笑う。
〝風にはためく裾を翻したアンタが、羽根を揺らして空へと還る天使に見えたんだ〟
なんて、そんなバカな事が言えるわけない俺は、みっともなく口篭るだけだった。
END
「揺れる羽根」
触ったら怒られる箱があった。
全面に木彫りの装飾が施された綺麗な箱で、私はその繊細な花の模様を見るのが好きだった。
見るだけなら良かったが、触ろうとしようものなら祖母に烈火のごとくに怒られた。
あの時の祖母の顔は、普段の柔和な顔とは違って、まるで鬼みたいだった。
子供の頃は決して中を見ることが出来なかった秘密の箱。それが今、私の目の前にある。
祖母が死んで一年が経った。
もう、いいだろう。
あの箱の木彫りの装飾を触って、蓋を開けて、中に何が入っているのか確かめよう。
「·····」
指でそっと箱をなぞると、繊細な見た目に反してでこぼことした感触が伝わる。
私はごくりと唾を飲んで、蓋を開ける。
そこには――
END
「秘密の箱」