あの人は歩き方に少し特徴がある。
足を前に出す時、体全体が上下に揺れるのだ。
その、弾むような歩き方が俺は好きで、わざと遅れて少し後ろから眺めたりすることもあった。
ちょっと前に指摘したら、「そうなのぉ?」と初めて気付いたような反応。目を丸くしたその顔が可愛くて、そして可愛いと思ってしまった自分に驚いて、俺はあの人への恋心を自覚した。
今もあの人は、俺の少し前を弾むようにして歩く。
丈の長いコートがふわふわと上下に揺れる。
袖の辺りはまるで踊るようだ。
ふわふわと揺れる袖と裾が、風を受けて更に大きくはためく。
「――」
無意識だった。
「ん~? なに?」
俺は無意識にあの人の腕を掴んで引き止めていた。
「どうしたのぉ?」
間延びした声で聞いてくる。
「あ、いや·····」
腕を離して口篭る俺に、あの人は困ったように首を傾げて笑う。
〝風にはためく裾を翻したアンタが、羽根を揺らして空へと還る天使に見えたんだ〟
なんて、そんなバカな事が言えるわけない俺は、みっともなく口篭るだけだった。
END
「揺れる羽根」
10/25/2025, 5:01:20 PM